デジモンアドベンチャー第1話感想


デジモンアドベンチャー第1話「漂流?冒険の島!」感想

脚本:西園悟 演出:角銅博之 作画監督:八島善孝 美術:飯島由樹子

OPは、回転しながら非日常な異世界に呑み込まれ落ちていく子どもたち。最初は勢いに翻弄されどうなることかと不安だが、次には思い思いの向き合い方で落ちていくということは主体性を持ってこの異世界と関わっていくことを示している。ファイル島の全体像に、黒い歯車と黒く恐ろしいデジモン(デビモン)があり、次に7体のデジモンの幼年期~成長期~成熟期の紹介、そしてサビで成熟期の活躍が描かれる。要はOPがファイル島編のネタバレである。この島でこいつがこんなデジモンに進化していくのか、と次回へ期待が膨らむ。「Butter‐Fly」の明るいパワフルな曲調と「きっと飛べるさ」の歌詞から、子どもたちが困難を克服し勝利を掴むであろうと思わせる。最後にずらりと並んだ姿は、堂々として自信さえうかがわせる。つまりは冒険を通して成長していくのだ。

世界中で異常気象が起きていたその夏。サマーキャンプに参加していた7人(後に8人)の子どもたちの、長く短い冒険の始まり。デジモンの良心・平田広明さんの淡々としたナレーションと、前説で流れる「アバン」は幼い日の甘く切ないひと夏の象徴。超絶に沁みるなあ。この物語を後のタケルが著作にまとめたという設定がすでに垣間見える。好評につき02放映が決まり、その設定が02に持ち越されたと聞いた。選ばれし子どもたちによる世界人類救済譚だとはまだ誰も知らない。世界を襲う異常気象は、2023年の今となっては現実でしかない事に驚く。

タイトルコールは太一。設定ではキャンプ場は東京都青梅市の御岳(みたけ)山だという。雪とオーロラ、見慣れぬ機械が子どもたちの手元に。勢いが激しくて、確かに隕石と勘違いしそう。そして子どもたちはすごい勢いでどこかに呑み込まれてしまう(これがOPのモチーフ)。光子郎がポケベルでも携帯でもないと言っているが、ポケベルねえ、まだそういう時代だった。ちなみに光子郎(天神有海・てんじんうみさん、引退宣言こそしていないが、ネットでの発信やアニメイベントへの単発的な参加以外大きな活動はしていない。2023年9月現在)、パソヲタではあるががっつりインドア派でないのはパソコンをリュックで背負ってのキャンプ参加やサッカー部所属という点からもわかる。

八神太一(藤田淑子さん)。角銅さんが姓名診断ソフトで「八神」と命名したそうだが、まさに8人のリーダーである太い一本の柱。偶然でなく実に運命的!双眼鏡でなく単眼鏡なのは、シンプルで身軽な彼らしい。高い木の上で昼寝、リーダーの風格とおおらかさが見える。空は少女漫画家の小田空さん、太刀川ミミは同じく少女漫画家の太刀掛秀子さんから命名したという。私世代直球の「りぼん」ファンには懐かしいお名前。城戸丈は土壇場で変更になるなど、苦難をしょい込んだ名前になったというのも丈のキャラからして興味深い。空は落ち着いていて、光子郎は好奇心旺盛でやや他人行儀、ヤマトは大人びた低音、ミミは無邪気で頼りなく、タケルは人懐こい最年少、丈は慎重で生真面目で小心者なのがわかるが、私はこの時点ではまだ丈は単なるギャグキャラかなあと感じていた。

太一が丈(菊池正美さん)を呼び捨て、小説でもヤマト(風間勇刀・かざまゆうとさん)が丈を呼び捨てにしたのは「同級生と思ったから」と書かれている。しかし、あの規模の小学校で同学年の顔を知らないなんてあるんだろうか?光子郎が同じ4年生のミミの不在に気付く場面(丈もミミを4年生だと把握していたし、そもそもフルネームを把握している)もあるし。むしろ中学での先輩後輩関係が持ち込まれる前の段階なので自然に呼び捨てたと私は考えるのだが。ちなみに、お台場小・中学校(作中では「御台場小学校」との記載)は現在、港区立お台場学園港陽小学校・港陽中学校という公立の小中一貫校となっている。

目を覚ますと、不思議な生き物が子どもたちの名を呼び、君を待っていたと言う。あとここが「ファイル島」だと。太一は早速単眼鏡で確認、さすがリーダー体質。プカモン(竹内順子さん)は、残念ながら小説では「生臭い」と書かれているが、「潮の香り」とかにしてほしかったな・・・。ピョコモン(重松花鳥・しげまつあとりさん)登場の時流れた曲は楽し気な「僕たち、デジモン!!」。そして彼らは言う、「僕たち、デジタルモンスター!」おきゃんなプカモン、舌足らずのトコモン(松本美和さん)、独特の嗄れ声のトゲモン(溝脇しほみ・後に山田きのこさんに改名)の声が特にかわいくて好きvツノモン(ガブモン)のオーディションは応募者が男性ばかりだったのに通ったのは山口眞弓さんだった。どこまでもヤマト命のガブモン、それでホント良かったと思う。テイマーズでもメインキャラに化けたし。個人的にはギャラクシーエンジェルの豪快な姉御・フォルテさんもハマり役で好き。

ヤマトが苗字の違うタケル(小西寛子さん、仕事上のトラブルで声優を辞めてしまわれ残念)の世話を焼き、タケルもヤマトを頼りにしているのがわかる。タケルが「河田小学校」なのは、フジテレビがお台場に移る前は新宿区河田町(かわだちょう)に存在していたからと思われる。実は私、河田町某所に勤めていたことがあり、フジテレビには愛着がある。残業が多いとよく「住所が河田町になっちゃう~!」と同僚と嘆いていたものだ。

一度は戦意を露わにする太一だが、空とヤマトに止められる。太一とヤマトの反発の第1号がここに。クワガーモンに襲われる子どもたちは、断崖絶壁に追い込まれる。「君を守るんだ」という幼年期のデジモンたち。その献身ぶりに、「私は息子をこんな風に守ってやれているのだろうか」と、当時育児に悩んでいた私は非常に胸を打たれた。謎だらけながら子どもたちとパートナーデジモンの運命の出会い、深い絆。一発目でインパクトがある敵デジモンとして、当初カブテリモンが選ばれたという。後に確かにカブテリモンは敵キャラと見紛う怖さだというのはファンの間でも定説である。カブトムシにしろクワガタにしろ、子どもに人気のある昆虫だから、丁度良かったのだろう。

まだ戦うという幼年期デジモンたち、子どもたちの危機意識に応えるように機械が発動し、天からの虹色の光でデジモンは成長期に「進化」する。そして、クワガーモンは炎とともに消えた。しかし、復活したクワガーモン、子どもたちは崖ごと落ちてしまう・・・ピンチに次ぐピンチ!もうハラハラの第一話!進化バンクは、予算が無く何とそもそもは角銅氏の手作りだというからすごい。以降、デジモンと言えば進化バンクと挿入歌、という流れができた。私はゲーム関係は全く疎いのだが、ゲーム商品としての進化・デジヴァイスが、ストーリーに無理なく絡んで、商品として手に入れプレイしたくなる魅力が描かれているように思う。この、デジモンと名前とが回転する形で挿入歌が流れる進化バンクは、デジモン好きの必須アイテムとして愛され、後の作品にも引き継がれていく。

第1話として、二転三転する急展開で思わず新しい冒険の旅の世界へ引き込まれてしまう回だった。キャンプという非日常はあくまで日常の延長に過ぎず、雪とオーロラ、さらに見知らぬ深い世界へ導かれて。出逢った生き物はしゃべるわ名前知ってるわ無条件に懐いてくるわで驚くやらすっかりなじむやら。そして献身的な戦いぶり。こんなのに懐かれたら不思議だけどかわいく思えてくる。ただ一人、生き物の登場にパ二クッているのはあの「大人のいるところへ」と繰り返していた少年。適応力の低さから、頼りなく思えたのはその人、丈先輩であった。ギャグキャラと捉えられても仕方ないうろたえっぷりが可笑しかった。

無印で声優デビューした方も多いが櫻井孝宏さんはデビューは他作でデジモンは最初のレギュラー出演だと聞いた。その後イケメン主人公ばかりやっているから、関西弁のこんな役は珍しい。ちなみに関西でなく愛知県出身。他のシリーズも含め、藤田淑子さんのような大御所の起用と新人の大胆な起用でバランスを取り、アフレコ現場をまとめたのではないかと思う。また、デジモンシリーズから、たくさんの新人声優さんが巣立っていったことを、デジファンとして誇りに思う。

中鶴勝祥さんのキャラデザは、頭と手足の先が大きいレトロなAライン、腕や足の細さをカバーするための手袋やリストバンドだという。そのバリュエーションがすごい。スニーカーの底の模様までデザインされており、非常に細やかなおしゃれな感じがする。また各キャラの性格をよく表しているように思う。鳥山明さん(私はこの人のネーミングセンスが苦手なのだが、絵がすごく上手いのはご承知の通り)のもとで働いたベテランさん。個人的に、中鶴さんでなかったらこんなにデジモンを好きにはならなかった。ポケモンのキャラデザもあれだけ長く続いてよくできていると思うが、私はキャラデザは断然デジモン派。

有澤さんについて書きたかったのだが、どの場面でもそれに相応しい多彩な音楽が付いていて、満足と言うしかない。ここに私の有澤好きが始まったのである。

EDは、青空とビル群のシルエットという対照的な背景。子どもたちとそのパートナーデジモンの幼年期・成長期・成熟期、というシンプルなもの。これくらいの映像が、クレジットを読むには丁度いいかもしれない。欲を言えば、動きのある子どもと静止画の子どもがいたので、全部動きを付けたらもっと良かったと思う。しっとり落ち着きのある、AiMさんの「I wish」。最後はビル群の夜景。異世界の風景でないのは、いつか必ず元の日常に戻る事を示しているのか。

次回予告:海へ向かった一行は、シェルモンに襲われてしまう。太一のピンチにアグモンの未知の力が発動!第2話で早くも進化!「今、冒険が進化する!」。

(2023/9/13 更新)

<スタッフ>企画:藤山太一郎(フジテレビ)、川上大輔(フジテレビ)木村京太郎(読売広告社)、関弘美(東映アニメ―ション)
原案:本郷あきよし シリーズ構成:西園悟 シリーズディレクター:角銅博之
キャラクターデザイン:中鶴勝祥 総作画監督:宮原直樹 音楽:有澤孝紀 美術:飯島由樹子

         戻る