デジモンアドベンチャー第12話感想

デジモンアドベンチャー第12話「冒険!パタモンと僕」感想

脚本:まさきひろ 演出:今村隆寛 作画監督:直井正博 美術:飯島由樹子

タイトルコールは珍しく二人、タケルとパタモン。「冒険」を二人で、「パタモンと」を松本さん、「僕」を小西さんが読み分けているという手の込みよう。作監が直井さんで原画も直井さんのみの、直井さんが好みの私としてはうれしい回。
ムゲンマウンテンに集まりつつある太一とヤマト、光子郎とミミ、丈と空。 タケル(白ブリーフと判明。ヤマトもブリーフ派だったから、奈津子ママのチョイスだろうか。そしたら裕明氏もブリーフ??)とパタモンだけが、皆と合流できずにいる。本当に可愛らしいなあこの二人は(小西さん、もう声優業はやっておられない様子、残念です)
冷たい月夜に、最年少のタケルといまだ進化できないパタモンとが落ちたのが、デジモンの生命が生まれるこの地だというのが象徴的。冒険とは言えバトルらしいバトルも無く、ケンカと綱引きだけの回。明るく柔らかく楽し気な場所で、このあどけない二人の言動ややりとりがとにかく可愛らしくて、赤ちゃんもいて、大変癒やされる。デジモンには雄雌が無いという設定からして、デジタマは生殖でなくどうやって産まれるのか。小説版でエレキモンは「気がついたらいつの間にかあるんだ。デジタマはそういうものなんだ」と言っている。ただのデータの消去と入力でなく命を宿している不思議。
相撲まわしといい、タケルの行司姿といい、本格的。これも相撲を取ろうという意志が具現化しての衣装だろうか。「エレキの海」「パタの山」、笑。しかしあくまで相撲の形を借りての綱引き勝負で、肉弾戦ではない。負けたエレキモンは潔く負けを認め、「はじまりの街へようこそ」と歓迎の握手、いい奴。
はじまりの街の世界観を知るのに美術にも注目して見た。電車が来ないのに作動する踏切はここの入り口にあった。オルゴールのやさしい調べからウキウキする音楽へ。入ると地面はふかふかで、建物はカラフルで大きなクッションの積み重ねでできている。やさしくかわいらしく穏やかで楽し気な街。無数のゆりかごの幼年期と、デジタマ。ゆりかごは、デジタマの殻が変化する仕組み。それをパタモンは知らなかった。赤ちゃんの時の記憶はない、と。そこで、タケルは自分のさらに幼い頃を覚えているかに思いを致す。「わたしをなでなでして」の手紙は、ひらがなでありデジモン文字ではない。誰が何のために置いたのか。ホメオスタシスが子どもの到着を控えて置いたのだろうか。エレキモンがぶつかったクッションから白い羽根が溢れてくるのは、エンジェモン登場を暗示している。
●タケル:兄たちとはぐれて大泣き、よしよし。ブルースハープのメロディと、積み木が崩れて(=家庭の崩壊)泣いたら近寄って見せてくれた笑顔の、うっすらとした記憶。太一に惹かれるとはいえ、やはりタケルにとってヤマトの存在感は大きい。争いごとを極端に嫌うのは、「大人のケンカ」=両親の離婚がトラウマになっているから。それで、ヒートアップするパタモンとエレキモンのケンカに「やめて」と絶叫し正々堂々の勝負で解決しようとした。「ベビーたちも怖がってるじゃないか」それは幼い自分が感じた恐怖そのものだから。「戦うのだけは嫌だ」「みんなで一緒に笑ったよね。何かが起きる気がするんだ、僕たちの心が一つになった時」それは言葉を変えれば『希望』。しかしそれをデビモンは把握していた。正義と悪、光と闇が相まみえるまでもう少し…
●パタモン:パンツ一丁のタケルとリュックを持ち上げる力があるのには驚いた。さすが見かけによらずの強さ。号泣するタケルに「こんな時ピヨモンだったら」強いアグモンやガブモンでなく、飛べるとはいえとろいピヨモンを比較対象にしていた幼さ。自分まで泣いてしまう。進化してみないとどんなデジモンになるか分からぬという。「タブンコンナモン」「キットコンナモン」は豚、カバがモチーフでまさき脚本ならではのギャグだろう。進化してタケルと友達でいられなくなるなら、進化しないでいいと思うある種健気だ。友達の約束を交わす二人。レオモンが迫るのも知らずに…。
●エレキモン:トカゲ(両生類)のように見えるし尾はクジャクのようだが哺乳類型の成長期。「かわいがり」の二重の意味を知っていたり、「山椒は小粒でも」のたとえを知っていたりと意外となかなか物知り。知性的なデジモンというよりはそういう情報をデータとしてたまたま持っていたに過ぎない感じがするが(パタモンがこれを聞いて「三色すみれはピリリと辛い?」と言い間違えたフレーズは、のちにキャラソンでも取り上げられた)。「保護者というか世帯主というか…」使命感が先というより、側にいて気がついたら世話をしていたという感じ。漁をして魚を赤ちゃんに与えるのが日課のよう。幼年期にそんなもの食べさせてるんだ、意外。最初は何者か分からぬタケルたちを敵と認識し攻撃してきた。タケルから希望を感じ取り、ピョコモン村のあるギアサバンナへ走る。

●デビモン:大悪玉のオーガモンすら骨抜きにし完全に従属させている、恐ろしい奴。進化できていないパタモンさえ倒せばと照準を合わせる狡猾さ。デジモンは皆デジタマから産まれる、タケルの「あのデビモンも?」との問いは非常に重い。アポカリモンがそうであったように、悪の権化デビモンにも闇に染まるに至る相応のプロセスがあったに違いないと考えられる。それが本作にて描かれることは残念ながら無いのだが。ナレの「時は近づきつつある。ファイル島、いやデジモンワールド全体の運命を賭ける正義と悪、光と闇が相まみえる、そう、両者の戦いがまもなく始まろうとしていた」は、12話にして本作の展望の大きさを伝えている。白い羽根が舞うのも続きを暗示して印象的。

<小西寛子さん>声優、女優、歌手、シンガーソングライター、Office Squirrel所属。おじゃる丸でNHKとのトラブルで残念なことに降板、現在はタレント活動やシンガーソングライターがメインなよう。根強いファンがいるのですね。無印の高石タケルの後任(後発のゲーム作品のみ)は潘めぐみさんが当たった。

<松本美和さん>所属はアクセント預り。高い後進指導力を持っており、声優コースの講師を歴任しているという。あのかわいらしいパタモン演技からは想像つかない。02で芝田浩、テイマーズでマコトを、フロでコクワモンの子供を演じた。

<エレキモン:高戸靖広さん>声優・ナレーター、青二プロ所属。多数のアニメ、洋画、ゲーム、CDドラマ等に出演。三枚目が多いが、影のある役や個性的な悪役までこなすという。デジモンではテイマーズでゲコモン、フロでゴツモン、アプモンでゴミモン、アドコロでエレキモン・ベーダモンを演じた。

<赤ちゃんたち>(コロモン:木内レイコさん、ボタモン:千束(ちづか)美紀さん、プニモン:埴岡由紀子(現・はにおかゆきこ)さん(どれみやデジフロでも端役として活躍)、ポヨモン:塩味薫(現・塩味かをる)さん(すでに引退しているという)、ユラモン:村岡雪枝さん(どれみやデジフロで端役として活躍)。「ユ二モン:藤本教子」さんとクレジットにあるが、ユニモンは登場していない。

次回予告:子どもたちは揃うが、デビモンとの対戦で痛めつけられる成熟期たち。勝機はないのか。そこに舞い降りたのは、パタモンの進化形…!

(2024/2/ 11 記)



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