第47話「ブラックウォーグレイモンの封印」
脚本:吉村元希 演出:川田武範 作監:伊藤智子
タイトルコールは伊織。ブラックウォーグレイモンは戦いで何を悟ったのか?
デジタルワールドでは雪の中、選ばれしデジモンたちが、デーモンのような悪いデジモンが行き来できないよう、光が丘へのゲートを閉じる作業をする。
12月29日、未確認生物体騒ぎに政府も動き出したとのニュースを、子どもたちの見張りをしながらみんなが聞いている。裕明は、奈津子にかしこまったメールを送る。ここでも大人たちの心強いサポートが。
伊織は、空腹で腹が鳴りアルマジモンの存在が主税にばれてしまう。出てきかたがかわいい。しかし、主税は伊織の隠し事もアルマジモンがデジタルな存在である事もわかっていた。なぜなら、伊織の父がデジタルワールドのようなところへ行きたいと言っていたのだ。父・浩樹は、テレビゲームのキャラクターが見えており、キャラクターが自由に生きている世界を信じた。母が来て伊織の外出を止めるが、主税が剣道の稽古と嘘をつく。ナイスフォロー。でも、私は個人的に、火田富美子というキャラが気の毒に思う。母親なら誰だって、子どもの冒険を理解し時に守り応援したいのに、富美子は神経質で保守的で心配性に描かれて、いつも蚊帳の外のような役回りだから、淋しい、かわいそうと思う。伊織と酒税の関係を強調するためなんだろうが。
カラスの群がる古びたアパートに及川たちはひそんでいて、アルケニモンは及川に「一人早く発芽しそうな子が」と言う。それはのり子。浦和さんが傲慢なさまを好演している。のり子の見張りをしていた京と、剣道の支度をした伊織が交代する。のり子の部屋からものの壊れる音とのり子の叫びが聞こえる。伊織は様子を見に行くが、盗聴のようで嫌だと、正義を愛するだけに思う。そこに及川が現われ、伊織は幼いのに果敢に剣を構え種を元に戻してと言う。伊織の剣道袋の名前を見て、及川は激しく動揺し浩樹の名をつぶやく。警察官を志した、あの強くまっすぐな裕樹と同じ目。一方なぜ及川が伊織の父の名を知っているのか伊織は驚く。及川たちは一旦退散する。
山の手線の陸橋で、一人たたずみ及川は伊織と浩樹のことを考えている。浩樹だけと一緒に楽しんだゲームの世界、でも浩樹は先に逝ってしまった。「俺はそんなに弱い人間じゃないよ、弱くなーい!!」と及川は叫ぶ。裕樹が逝って、火田家の墓前で及川はパソコンを開き、自分の作った蜘蛛デジモンを浩樹に見せたかったと言う。及川の頭の中のアルケニモンが「醜いのだお前は、醜い姿を認めたくない、なぜ私を作った」と責め、及川は絶叫する。木の上のカラスがそれをあざ笑うかのように鳴く。おそらく裕樹は、デジモンにある種の区切りをつけ警察官として大人の社会に入っていったのだろう、及川との友情は変わらずに。しかし、及川はデジモンを突き詰め大人になれないまま年を重ねたのだろう。唯一の友を失い、及川は何を求めているのか。
私は、ここの場面は谷中霊園周辺ではないかと思う。川田家の文教区本郷から徒歩圏で、アルケニモンたちを人払いしたらちょうど夕暮れ時、陸橋の下に山手線が走り、浩樹と及川の通学したホームに桜の並木があると言えば、そこだ。さらに細かい事を言えば、谷中のあたりは巨大ターミナル駅の上野駅に近いから、画面のように電車が上下1本ずつの路線はあり得ない(京浜東北線、常磐線、その他多数の路線あり)のは矛盾点。あと、山手線に沿って近くに西日暮里駅(天下の難関、開成学園のある駅・ちなみに無印で丈は開成中を目指していた。)がある。中学生たちが徒歩や自転車でなく同じ電車通学となれば、当然区立中でなく私立中の出身のはずだ。NECのような一流企業に就職したなら、開成中出身ではないか。
マミーモン「ブラックウォーグレイモンはデジモンで、及川さんは人間で、俺たちはそのどっちでもないんだよな」。アルケニモン「考えても、始まらないだろ」思考の放棄。そうでなければやっていられないのだろう。
12月30日、伊織は出かけるとき「お父さんは悪い人じゃないですよね」と主税に尋ね、昨日の事情を話すと、主税も及川の名に覚えがあると言う。
賢はのり子の後をつけるが、尾行がばれ話をする。のり子は心の隙に付け入られているのに気付いてない、昔の賢と同じで胸が痛む。大輔、伊織も合流。神社へ入ったのり子の首が赤く光り、のり子は叫びをあげる。暗黒の花(じめじめした墓地なんかによく咲いている闇の花、ヒガンバナにそっくり)が開いたのだ(頭のてっぺんに花ってちょっと間抜けな感じでイヤです)。及川たちが花を刈ろうと現われ、賢たちはパイルドラモンに進化するが、及川がのり子を抱え逃げる。次はディグモンだがマミーモンとアルケニモンに邪魔される。のり子「及川様、お願いします」(笑)と自ら頭を垂れ及川は花に手かざし、やめさせようと体当たりする伊織を張り倒し(これ許せんぞ!怒)エネルギーを吸収しのり子は倒れてしまう。エネルギーを取ったら用済みだというからひどい、伊織の「お父さんの友だちだったあなたが、どうしてデジモンを使って悪い事をしているんですか」正義感溢れる姿は浩樹とそっくりだと感じるが、浩樹はもういない。及川のエネルギーは増し、紫のオーラを発する。
そこへブラックウォーグレイモン、ウォーグレイモンが来て(太一に「先に行ってます」と言うワンカットがあるがいろんな意味で意味不明。)、ブラックウォーグレイモンは及川の思うようにはさせないと、ガイアフォースを放つが暗黒のオーラのせいかダメージがない。「お前は力が欲しいのか、1人の寂しさから逃れるために、そんな事をしても無駄だ、力をかき集めてこの世の全てを自由にする事ができたとしてもお前を孤独にするだけだ」それはブラックウォーグレイモンが悩んだ孤独そのもの。
さらに主税が駆けつけ、過去に浩樹と及川の夢を禁じてしまったことを謝る。浩樹と及川は青年になっても夢を信じ続けた。雪の夜に二人で作ったユキダルモン、ヌメモン、シードラモン、ユキミボタモン…。そしてあの夏浩樹を亡くした及川の孤独に何もしてやらなかったことを主税は悔い、及川に友人になって裕樹のことを話さないかと申し出る。及川の表情が一瞬嘘のようにあたたかく緩むが、本人と違う暗黒の力がそれを阻み、主税に攻撃する。主税をブラックウォーグレイモンがかばい、腹部の装甲に致命傷を負う「お前…だったのか」。誰―?!かばった善意は立派だけど、あれだけ強かったのに何かあっけない負け方。
及川は、実は更なる邪悪の仮の姿らしい「やっぱり私は一人でなければならない、今までもそしてこれからもずっと」。ブラックウォーグレイモン「いけない、あいつに支配されては」・・・及川は残りの花を回収しデジタルワールドへ行くために去っていく。
死を悟ったブラックウォーグレイモンは、光が丘のゲートを封印することに残りの命を賭けると言い、飛び立った。タケル「ブラックウォーグレイモン、何か見つける事ができたのかな」伊織「ええ、きっと」。空には、雨上がりでもないのに虹がかかる。デジタルワールドにも虹が出て、光が丘へのゲートにはブラックウォーグレイモンの姿が刻まれる。最後まで命の意味と取り組んだ彼を呼ぶウォーグレイモンの叫びが痛々しく響く。デジタマに生まれ変われるといいな。
真の敵は、あいつだったのか・・・
伊織と父性喪失について。子が発育するのに、母性と父性が適宜必要なことは知られている。伊織は実の父を幼い頃亡くしている。が、主税という代替の父性(しかも武道をたしなむ)を持てたことは大変ラッキーであったと思う。冒険の中で、ブラックウォーグレイモンという異質の父性と対峙し、これもまた亡くしてしまう(しかも主税をかばって死ぬという形で)。また、及川も伊織にとって実父の親友と言う父性的な存在であったが、それも亡くす。ややもすると父性について混乱したり絶望してしまいかねないのに、伊織はその後、罪びとの力になる強い立派な弁護士となる。父性の喪失というトラウマを乗り越えられたのは、実父が名誉の死を遂げたという誇りと、父親代わりの主税の存在が大きかったのだろう。