デジモンテイマーズ第24話「デジタルワールドへ…旅立ちの日」感想
脚本:小中千昭 演出:中村哲治 演出助手:地岡公俊 作画監督:清山滋崇 美術:清水哲弘 CGデザイン:荒牧伸志(今話よりクレジットに追加) (2001/9/16 放映)
子どもたち(とデジモン)が大人との関係性を再構築し、冒険に旅立つ準備に当てた2日間の顛末が描かれる。
OPに一部バージョンアップあり。テイマーとしてジュリ、ケンタ、ヒロカズ、シウチョンがそのパートナーと共に色付きで加わった点、メイン3体のシルエットだった部分が究極体になった点、それによって進化系に究極体が加わった点、ベルゼブモン・ブラストモードが登場した点。
EDは「Days -愛情と日常-」に変わった。歌自体は良いのだが、歌詞が難解な大人のラブソングというのには面食らった。演出は今村隆寛氏。
小中氏の知らないところで、25話でなく24話から後半ということになっていたという。さらに言うとシナリオ上は23話で第一部完結とされていたという。22、23話でアクションシーンとバンクが多かったが24話は進化・スラッシュのバンクなしで、静的な語り口に切り替えた。というのは、シリーズ前半の日常に現われる非日常ではなく大きなフィクションの世界にこれから入るから。
小中氏のブログによると「書いていた当時は、タカトたちの両親よりも既に歳上であったけれど、私の中にはまだ少年がいた。この視点と親の視点、両方が入っている。」さすがクリエイター、「永遠の少年」ですなv
明治通りで行われたデジモンの激闘は、マスコミの知る所となり、デジモンという怪獣まがいの存在と、子どもたちがそこに居たことは報じられたという。
タカトのモノローグ。場所は、破壊を免れた新宿中央公園に隣接する熊野神社。「ぼくたちの町…」強い日差し、セミが鳴く晩夏。蝶の死骸を運ぶ蟻の列、生と死が凝縮されている。「ぼくたちの世界…」空には自衛隊のヘリがまだ飛んでいる。復旧が進められる街。「そして」ヴィカラーラモンが倒れた跡の穴。しかし人々は日常に戻りつつある。「ぼくたちの知らない世界…」路上に開く小さなデジタルゲート。
松田家では、タカトの行動に父は怒り母は心配している。だが、あの怪獣との関係はまだ知られていない。親不孝との自覚はあるけれど。
ルキは母にしがみついて泣かれてしまう。取りなす術もない祖母。だがルキの気持ちは外の風鈴(レナモン)を向いて。
キーボードをたたくジェン。長いメ文章、つまりは親へのメールか。
地下トンネルで成長期に戻っているギルモンは、DWへの入り口を探しに外へ出てギルモンホームへ。そこが臭うと気付き走り出す。タカトに知らせようというのか。
新宿駅東口(スタジオALTAをもじったATARUというビルや、角の実在する果物屋がそれを示している)、そして歌舞伎町。レナモンも、探している。
李家のタワマン。ヒュプノスから解放されて、デジモンの解析を続けるジャンユー。ジェンを部屋に呼び、Dアークを見せてもらう。ワイルド・バンチが構想し実現はしなかったプロジェクト。昔の夢がこうして誰かの手によって実現しているという驚きと喜び。何者かがデジモンを飛躍的に進化させ、アークを出現させたと言うジャンユー。世界の人々と協力して、もう子どもを危険な目には遭わせない、と。腕組みしてしたり顔のテリアモン。危険だから反対されると思うジェンは、旅立つ決意を告げようとするが、バッドタイミング。ジャンユーは、ジェンの事をどこまでわかってくれてるのだろう。
商店街の小料理屋、当時実在した店をイメージしたという。2階に部屋があるジュリは、店の冷蔵庫からジュースのパックとコップを拝借。酔客のあしらいは愛想よく慣れたもの。店に降りるなと言ったろう、と厳しい父親(佐藤晴男さん)。奥には心配そうな継母の姿。父の厳しさは性格的なものもあるが、それに加えて明治通りの騒動でジュリが保護されたであろうことも一因だろう。
部屋には親の干渉を避けるためか「勉強中」の札が下がっているが、自室ではなく弟との相部屋。写真立てには、幼いジュリとジュリそっくりの実母の写った写真。物心つくかその前に亡くなったのだろうが、忘れられようはずもない。こんな悲しい過去があったなんてショック!義弟はソックパペットを握って眠っている。おそらくは弟との交流のために使っているのだろう。
小中氏のブログより「中鶴勝祥さんが最初期に描いた樹莉のイメエジ・スケッチ、ソックパペットを持っている姿に説明は何も書かれていなかったので、貝澤さん、関プロデューサーらと想像を逞しくして樹莉の家庭事情が考えられていった。1枚の絵にはとてつもない量の情報と物語が潜んでいる時があるものだ。」いやそんな風に出来上がっていったなんて驚きです。創るって、すごい!
窓の外に来ていたレオモンをオレンジジュースでもてなすジュリ。「様はよせ」「ハイハイ」ウケる~。獣の性で匂いを嗅いでから飲むレオモン(ネコ科動物に柑橘類は禁忌だと、この時の小中氏は知らなかったそう)。「凄いことよ」「だってだあれも行ったこと、ないんだもの」と楽しみにしてはいるが小声で「だれも…」と、怖い気持ちもあるよう。それを知り手を差し伸べようとしたものの引っ込め、「今は私がパートナーだ」と告げるにとどめる。やさしいんだわあ。ジュリの顔が明るくなったついでに、レオモンに頼み事。ここは正確を期してブログを引用しよう。「この顛末は、出発直前にケンタとの会話でレオモンが「樹莉の両親を怖がらせてしまった」という台詞で結ぶシナリオだったのだが、樹莉が「ちゃんと親には言えなかった」という態度を見せるという演出に変わっていた。それで意味は通るのだけれど、少し判り難かったかもしれない」。
どうやら親に外出を止められているタカト、ルキと電話で情報交換。背後には、新デジモンテイマーズの旗が準備されている。
ルキが電話を切って廊下へ出ると、現われたレナモン。ヴィカラーラモンを倒したので早く入り口を見つけねばと。大きなデジモンがリアライズするとDWとRWの境界があいまいになるよう。ただレナモンはルキが行く事には実は反対。危険な目に合わせたくないからデジモンだけで行くべきだと。話し中で油断したところを、聖子に見つかってしまう。うすうす聖子は知っていた、レナモンの存在もルキとの関係性も。改まり挨拶するレナモン、礼儀正しくも「美しい姿」。祖母の理解は得られたものの、母となると絶望的かも…。時間を掛けて話せば、ととりなす聖子。しかしルキにはその時間がないのだと悟る。私の命に代えてお守りします、とのレナモンの言葉の重さ、自分の命の重さにハッとするルキ。聖子はお願いしますとだけ言ってレナモンに頭を下げる。小声だけど素直なルキの気持ち「ごめん、なさい…」すてきだな~ここの三者のやりとり。
翌朝、タカトがギルモンホームへ行くと、何と掘りに掘ったギルモンがデジタルワールド・ゲートを見つけていた。灯台下暗し。
ブログによると、DWに旅立つ入り口をどこに設けるか、決めないままストーリーを進めていたという。普通なら7話で登場した≪ゾーン≫にするところを、トンネルを隠れ場所として頻要したため使えなくなった。それで悩んだ末にギルモンホームの地下になった。小中氏はそもそもDWを地底にイメージしていた。ギルモンが穴掘り好きという設定も初めからあったわけではないが、それが生きて、地下ということになった。小中氏はこう締めている「最初から決め打っていたら、こうした発想など当初に得られる筈がないのだ。演繹的作劇はこういう醍醐味(と苦しみ)がある」。
ゲートのその先にあるDWでは、マクラモンがクルモンを入れた檻を得意げに掲げて飛んでいた。この球状の檻は、マクラモンが23話で投げた宝玉が変形したもの、という想定だそう。
DWの、別の場所にて。インプモンの嘆き「所詮ただのデータ、こっちの世界がお似合いっていうのか…」すっかり弱っており、アイマコとの絆の再構築には程遠い姿、かわいそう。
入り口は見つかった、さて。場所は淀小、セミが鳴いている晩夏。浅沼先生の授業中。タカトはノートに落書き、心ここにあらず。ギルモン、クルモン、インプモンを描いているから、インプモンの事も心配なよう。それが先生にばれないわけもなく。クラスの平均点が下がるのが困る、と浅沼節。タカト、居残り反省文確定。すると何とジュリが授業を聞いてなかったと爆弾発言、ヒロカズ、ケンタも続く。明日の事で頭が一杯なのはタカトだけじゃない、不思議な仲間意識。BGMはAiMさんの「ひまわり」(My
Tomorrowのカップリング曲)。廊下に立たされる4人(体罰、教育を受ける権利の剥奪として現在は禁止)。ジュリの「最後の授業かもしれなかったのにね」は思春期前期の子どものひと夏の切なさを象徴するよう。(え?と小さく驚くタカト、ジュリに比べ旅の危険についてまだ認識が浅かったよう。)そこに丁度AiMさんの「君と過ごした季節~♪」が聴こえて涙。夏の終わり、それは子ども時代の一つの終わり、せつなくて。校庭にはひまわりが咲いて、淀小と都庁の全景にてアイキャッチ。小中氏のシナリオ・アップ時には「ひまわり」を流して欲しいという要望はなかったという。「My
Tomorrow」のEDが終わってしまったのでギリギリ夏のこの回に使うしかなかったらしい。挿入はつまりは大人の事情らしいが、効果は抜群。
居残りのタカトの見やる先は果て無き青空。遠くへ冒険に行くんだ。
リビングであろう机に仕事道具を広げたばこの本数が進む失意の山木。考え事で鳴っている電話に出ようともしない。この部屋は山木のか麗華のか迷ったが、山木の部屋なら設備が整えられリビングにノートパソコン一台に携帯一台にタブレットという状況はあり得ないだろうから、麗華の部屋に山木が居候していると思われる。ここで、山木と麗花がプライベートで大人の関係であると明白に。高層階で大きな黒いソファーに立派な収納家具と収納物、お家賃高そうな部屋、国家公務員の給料で住めるのかな。間取りの広さが推測される大きな扉から出てきた意外に地味な私服の麗華、山木にこれからどうするのか問い詰める。美人が怒ると怖い。が山木は心ここにあらず、可能性を宿した子どもたちの今後に自分が何をできるかで頭が一杯なのだろう。
書き終えた反省文を職員室に届けるが、礼をするのは優等生であろうジュリだけ。4人の反省文、実は旅立ちの報告文を読んだ浅沼先生(ケンタは成績優秀らしい)、子どもたちを呼び止める。それは旅立ちを心配するためではなく、報告文を受理した責任の回避を望んでのもの、あくまで自己中な先生。2組の4人はそんな先生をも受け入れ穏やかに旅立ちを宣告、下校していく。ジェンと共に4人を待っていたテリアモンが「モーマンタイ」と。教師として人としてのアイデンティティが揺らぐ浅沼先生を一人残して。
ギルモンホームを前に、最後のミーティング。親にどう伝えるべきか悩ましい。特にジュリは言いづらいのを自覚しているよう。ルキは、レナモンの心配ようを思うとヒロカズとケンタの参加を危惧するが、二人にはDWでパートナーを探すという明確な目的があるので迷いはない。さあ、タカトが仕切って、明日6時に集合だ。
旅立ちの告白を決めたタカト、ギルモンを連れ店から堂々と入る正攻法、決意は固い。歓待されていないのを感じ戸惑うギルモンがかわいい。リビングのテーブルにて、タカトはギルモンの誕生にさかのぼり事情を説明する。真っ向から向かう父、その後ろで立ったまま不安げな母。デジモンは友だち、パートナーデジモンのいる子供が複数いる事、DWにさらわれたクルモンを助けたい事、それが元の平和な街を取り戻す事にもつながる事を父の容認によってありのままに話すタカト。どうしてタカトが犠牲を払わねばならないかという母の嘆きはもっともだ。しかしタカトは、仕方なくではなく冒険として「行きたいんだ」と前向き。BGMはタカトのキャラソン「Across
the tears」。取り乱す母、しかし父はおもむろにパンを作り始める。タカトのあんな真剣な顔は初めて見た、行かせてやろうと。たかが10歳、されど10歳。必ず帰って来いとだけ。母も、もう止められないと思い始めている。「ありがとうお父さん、ご免なさいお母さん」。一般的なまともな家庭ではおおよそそうなるわな。
ジェンリャはシウチョンに、テリアモンと旅に出ると伝える。ぬいぐるみではなかったことに驚くシウチョン、お土産をねだるなど無邪気なのかしたたかなのか。父には反対されるからメールで伝える、とジェンリャ。大丈夫かなあ。
ルキが心配でお酒(やけ酒もオシャレに赤ワイン)に頼るルミ子に、ルキはピンクのフリフリドレスを着て見せに来る。着てくれたことに礼を言う母。こんな形で絆を確認する不器用な母子。でもルキは旅立つことを言えなかった、多分昨日よりもっと泣かれるから。
翌朝、集合。ヒロカズは学校行事とごまかしてきた。ケンタは置き手紙。親にきちんと言わないとと言っていた当のジュリはというと、どうやら気まずくて言えなかったよう。あの厳しい父親とわだかまりのある継母じゃそら言えないわ。タカトは遅刻、大量のパンとテイマーズの旗を持って。
そこへラフなテイの山木出現!わざわざ通信手段を渡しに来たよう。子どもたちのお遊びと言っていた山木も、その重要性を認めざるを得ず、出した結果がこの見送りだった「君たちがうらやましい」。真意を測りかねる子どもたちに、サングラスを外してみせる山木!再度確認、一応イケメン扱いでいいのかな?礼を言う子どもたち。BGMは「アバン・タイトル」で気分も高まる。ここの山木の原画は中鶴氏が直接手掛けたという。。
そして子どもたちは地中のゾーンへと降りていった…。ナレ「夏の終わりに、タカトたちテイマーズは未知の世界、DWに旅立っていった。どんな冒険がタカトたちを待っているのか。それは誰にも判らない」。
次回予告:DWから見えるRW球は、遠くへ来たことを感じさせる。ひとまずそこは荒野、初めて出会うデジモン、冒険は始まったばかり。ファイナルコールはタカト、ジェン、ルキ。
(2021/11/10 記)