デジモンテイマーズ第39話感想

デジモンテイマーズ第39話「舞い散る究極の花!サクヤモン進化」感想

脚本:吉村元希 演出:今沢哲男 作画監督:清山滋崇 美術:渡辺佳人 (2001/12/30 放映)

24話からOPに出ていたレナモンの究極体。ルキの重要な回は吉村さんが書いてきたので当然ながら今話も。小中氏「今話の重要なキャラクターとも言える美術は渡辺さん」。チンロンモン、スーツェーモンの威容と、高まるデ・リーパ―の恐怖。
DWの秘密を知ったタカトたち。真の敵とは、デ・リーパ―なるデジモンの駆除プログラムに何かが起きたものとわかった。その頃クルモンにはデ・リーパ―が迫っていた。全てを消し去るデ・リーパ―に、打つ手はあるのか。手詰まりの中、ルキのした決意とは。
サブタイトルコールは珍しくタカトではなくサクヤモン。さすが今井さん、中性的なタオモンともまた違う、大人の女性な声。もちろん、ルミ子、聖子とも違う。奇跡の演技!後日談を聞けばなおさら。本当に惜しい。
小さく見えるRW球、その下にはチンロンモンとスーツェーモン、子どもたちがいる。小中氏のブログより「今話は大型原画に描かれたカットを、縦、横のパン(キャメラを振る)するカットが非常に多く、ここで載せるキャプチャはその全てを繋いではいないが、なるべく繋いだ。四聖獣は巨大な上に、神々しさと、それぞれの色の特徴を際立たせる意図でモヤモヤとしたエフェクトが常に動いている。だから止めの画でも動きがある。で、これをキャプチャして構図を繋いでも段差が目立つが、ここでは何が映っているか、その情報として見て戴きたい。実際の画面は息を飲むほどに美しい」。
スーツェーモンの様子がおかしい、真の敵、危険が迫っていると。チンロンモンは、クルモンは子どもたちの助けが必要やも、と子どもたちに息を吹き雲に包んで彼の地へと運んでいく。そこは進化種鞘があった深淵の中心。
背を向けたジュリに、タカトが声をかける「元気出してよ、加藤さんいつもニコニコしていて元気で、僕は、加藤さん、いい子過ぎるから」とその心中を察する。一見優等生に見えるジュリ。ナイーブなタカトらしい声かけ。しかしジュリは「いい子なんかじゃない、本当のお母さんが死んだ時だって、私何日かで泣くのを止めちゃったもの。新しいお母さん、いい人だし、好きになろうって思ってるけど、だけど」そう、ジュリが幼い人生の中で初めて感じた自力でどうしようもない決定的な重い「運命」、実母を亡くすという。そして継母との関係性の構築の難しさ。やめなよとタカトは制するも、他人の家庭の事情にただ無力な一小学生に継ぐ言葉はなく、立ち去るしかなくて。無念。レナモン「ジュリの心は悲しみに閉ざされている」、レオモンがいなくなった事、それを止められなかった事。小中氏「留姫がレナモンに、人の心の読み方を訊ねている。今やレナモンは留姫の姉の様に見える」。ルキもかける言葉なく、ジュリは「全ては運命なのよ」とうつむく。小中氏「子どもたちのこうした会話は、落ち着いたシチュエーションでなければ描けない。実のところ、四聖獣ならば一瞬で目的地へ辿り着ける。しかし今話までは激動の状況が繋がっていて、気持ちを言葉にする時間すらもなかった」。なるほどその通りです。カメラはRW球にチンロンモンとスーツェーモンの軌跡が重なるのを見上げて。静かで詩的なシーン。
バイフ―モンの領域、静まり返っている。谷底から現れた巨大な白虎バイフ―モン、究極体、聖獣型デジモン、四聖獣。バイフ―モンを労うシェンウ―モン。見られて喜ぶリョウだが、バイフ―モン(辻親八さん)は唸り声をあげ倒れ込んでしまう、傷だらけだ。バイフ―モンをもってしても、侵攻を止めるだけで力を使い果たす相手とは。バイフ―モンが命懸けで敵を封印した。もう敵の気配を感じない、行こうとサイバードラモン。飛び乗るリョウ、真の敵を求めて飛び去り、例の縦孔の中へ。
縦孔の内部には、浮石が幾つも浮かんでいる。チンロンモンは降りられるところまで子どもたちを運び、浮石の上へ。その深淵から浮かんでくる赤黒いブロブ。浮石に触れると一瞬にして消し去ってしまった、非常に危険な泡。ここまで来ていたとはと驚くチンロンモン、真の敵が聖域を汚そうとしているのが許せぬスーツェーモンは深淵へ飛び立つが、四枚の羽根の一枚を失い戻ってくる、強敵!真の敵は、進化をもたらすクルモンを求めて DWに侵攻してきた。クルモンはつまりは常に敵と隣り合わせ。可哀想、とケンタとヒロカズ。スーツェーモンでもこんなだったら誰も敵わないと、不安なテリアモン。
辿り着いたリョウとサイバードラモン。互いに挨拶を交わすが、ルキは「生きてたんだ」「爽やかさも相変わらずで、いい加減にしてって感じ」と毒舌、苦笑するリョウ。
その頃深淵では、必死に登っていくクルモン。浮石がまた一つ消えて、怖いでクル。
泡に触れたら消えてしまう、ジェンは軽率に動く事を制する。「運命には逆らえない」とこぼすジュリ、展望が見えなくて。じっと聞いていたルキ、レナモンに声をかけそこは阿吽の呼吸、様子を見てくる、と単独行動。リョウの制止も聞かずに。仕方なく続くリョウ、同行するサイバードラモン。ずっと下には、赤いデ・リーパ―の泡がうごめいている、危険!
クルモンを求めほぼ足場のない崖を降りていくルキたち。レナモンのエスコートとサイバードラモンの飛行ありき。ルキ「運命は変えられないの?」レナモン「変えられる」。小中氏「最終的な、デジモンテイマーズの主題である。だが、それを言葉だけではなく、行動によって視聴者の子どものメッセージとして伝えていくのが今話であり、第三部の展開なのだ」。レナモン「過去は変えられなくとも、現在は変えられる。現在が変われば、未来を変える事が出来る。しかし」「それを人に強いることはできない。ジュリが自ら変わろうとしなければ」。ルキ「ジュリは今悲しいんだよ?」レナモン「それはわかる」。小中氏「この二人の深い話がここまで描かれた事はなかった。こうした極限の状況だからこそできる、本質的な会話」。運命は変えられる(しかしジュリ次第)、とレナモンに断言させた。それが今後の展開に生きていく。
暗闇から声がする。じっと見ると、果たしてクルモンが見えた。落ちそうになり、でも迷わず走るクルモン、ルキの手に!感動の再会。しかし泡は止まない。かばうレナモン、ついにルキのリュックが消失の被害に。更に来る泡、叩き割ってくれたのはサイバードラモン。ルキを岩陰へ避難させるリョウ。無茶をいさめるリョウ、反論するルキ。こんな時も相変わらず;
さすがに泡が増えてきたため、リョウは一計を案じる。「ナイト」をスラッシュし、ランスニ竿(と呼ぶんだそう)を縦孔の壁に突き刺し、更にイレーズクロウで壁の岩を破壊して、孔を臨時に塞ぐという快挙。今のうちに避難を。この策の難点は、封鎖した分エネルギーが溜まり、爆発的に噴き上げる可能性。登り道は、下りに増して厳しい。ここで疑問なのは、サイバードラモンが飛べるのだから、リョウ、そしてルキを抱えて飛べばよかったのではという点。二人いっぺんが無理でも、一人ずつ乗せて飛べば、まどろっこしく崖を登るより早いと思うのだが。レナモンは自身で登れるだろうし。
上では、ヒロカズの発案で男子たちがチンロンモンの長い髭を拝借し伝って降り出した。泡が出てこないと、ケンタが気付く。ルキとリョウが何か策を?ともかく急ぐ男子たち。勇気ある子どもたちの無事を祈るチンロンモン。
無事かとのヒロカズの問いに、ルキまたも毒舌。しかし、封鎖は解けそう。現に、リョウの右腕のアームカバーが消失。小中氏「リョウはゲームの、デジタル・ワールドを冒険する少年としてデザインされていた。だから服装もフィクショナルで日常的ではない。しかしゲーム・ユーザーが親しんだリョウはこのリョウなのだからと、テイマーズでもそのままになっている。/この腕アーマー的なパーツが何なのか、最初はよく判らなかったのだけれど、28、29話で猛るサイバードラモンを鎮める為に、D-Arkから放つ光の鞭を使った時に判った。強烈な引っ張りに手首を痛めないための、サポートなのだろう。しかし、それも失われた」。
ルキを急かすリョウ、しかしルキは黙考の末、登るのは間に合わないからクルモンを預けて自分が泡を食い止めに行くと決意。それは固く、リョウの制止も聞かずレナモンを伴って下へと。レナモンも戻るよう迫る「どうして私の言う事が聞けない?!」ここで流れる「冒険者たちの戦い」の「傷跡」という弦の低音とピアノの二重奏が悲痛。レナモン「パートナーを危険な目に逢わせるわけにいかない、帰れ!」「ルキ、どうして何も答えない?」ルキ「運命は変えられるんでしょう?」うなずくレナモン。小中氏「今の頷きは、「運命は変えられる」という答えと、そして留姫の意図にも同意したのだ」。そう、二人究極進化して泡を止めようと。崩れゆく封鎖した岩たち。
小中氏のブログより今話のルキの描写について「テイマーズは、おおまかな「各話でこなしておく事」というものは当然あったのだけれど、殊更に文章化せず、それまでのシナリオを前提に細かいところは直接話し合って、それからはその回の主題だったり、ディテイルはそれぞれのライターが考えて書いていった。非効率ではあるが、話し合う方が有機的な縦筋、キャラクターの深化というものが出来るという事を、私は経験から判っていた。/今話に関しては、クルモンの状況がこうなってる、で、子どもたちが助けに来るのだけれど、極めて困難な場所、次話への引き渡しはここまで─、という程度しか縛りはなく、「で、留姫とレナモンがサクヤモンに進化する、みたいな」がオーダーの全て。/留姫はタカトやジェンよりも、早くからパートナーとの関係性に激しく葛藤した経験を持っており、最早ぐじぐじと悩む様な心理的ステイタスには無い。かと言って安直には進化出来ない。だから留姫は、自分自身を追いつめるのだろうとは思っていたが、私も視聴者も、レナモンの方に共感して見ていくという展開には今更ながらに驚いた。/こういう行動に躊躇なく挑む留姫は、やはり「男子」には太刀打ちできない強さがあるのだと思い知らされた。/ただ、このパートの留姫を突き動かしているのは、鉄砲水で溺れそうな留姫がクルモンに命を助けられた、という30話の出来事があったからでもあり、単なる無鉄砲な行動ではない」。危険なブロブに二人身を投げたのは、進化できるという確信があってこそ。
小中氏「留姫の行動、そして今の決意にはレナモンとともに究極進化を果たす、という期待と計算もなくはなかっただろう。/しかし振り返ればタカトとギルモン、ジェンとテリアモンの進化だって、ロジカルに「こうしたからこうなった」ではなかったのだ。客観的に無理な事を、為そう─という決意と強い意志こそがこの奇跡を結実させる。/デ・リーパ―が噴き出そうとしている孔に向かって跳躍する留姫とレナモン。「冒険者たちの戦い」の「美波!!」という、弦楽オーケストラの曲」。固い決意に切なさを帯びて。リョウが大声で呼ぶも振り返らず、決意の顔。クルモンが喜ぶ、しかし額の赤は光らない。
サクヤモン進化バンク、コンテと演出は荒巻さん、作画はキュウビモン、タオモンと続いて大塚健さんが担当。マトリックス・エヴォリューション!叫び声はルキ。光と共に服は消え髪は解けて。女児だからして光は多め。一瞬黒い影が過ぎ去り、静寂の後に「One VisionサクヤモンVer.」イントロ。背景に月夜と桜、足元が獣の足からハイヒールへ、獣の手から人の手へ、黒いシルエットに長い髪の女性、四色の狐の影をまとって。小中氏「無装甲状態のサクヤモンが放ったのは「飯綱」(いづな)という四匹の管狐(くだぎつね)。海外の人に説明しておくと管狐というのは、細い杖の中に仕込まれている狐の精霊。一種の使い魔。「火」「水」「風」「雷」の属性を持っている。設定ではこれが必殺技の一つになっていたのだが、進化バンクで使っている」。豊かな胸元、スマートな腰回り、水面に映えるハイヒール。レナモン、キュウビモン、タオモン。ルキの覚醒した顔、そしていよいよ顔。狐の面と口紅、跳躍。着地と共に手にあるのは金剛錫杖。サクヤモン。ルキ、進化した喜びと温かさで満面の笑み。これは貴重な…。
リョウとクルモンが進化を目撃。サクヤモンはデ・リーパ―の上に立つが消えずにいる。錫杖を鳴らし、サクヤモン無伴奏で歌い始める。ルキにあっては、今は祈りの気持ち。サクヤモン、鼓の音で上昇。デ・リーパ―がそれに続いて上昇。錫杖を振るとデ・リーパ―が消えていく。小中氏「相手を抹殺するというのではなく、浄化するというイメエジ」。桜色の光に、リョウとクルモン、男子たちも包まれて。ジェンのアークで表示(テリアモン・アイではない?)、サクヤモン、究極体、神人型。全く君には敵わない、とリョウ、クルモンを抱いて。
縦孔から出るチンロンモンとスーツェーモン。チンロンモンに乗せてもらった子どもたち、サクヤモンとサイバードラモンは併走。ああやっと収まった。朱雀門に戻り、地上へ降ろされる子どもたち。ルキが髪を束ねていると、ジュリが駆け寄り抱きしめる「いなくなっちゃうのかと思った」。クルモンがジュリに近づくが、元気がないのが気になる。これで一緒に帰れる、とジェン。
まさにその時、縦孔から多量のデ・リーパ―が吹き上がり、四方へ飛び散る。愕然となる子どもたち。デ・リーパ―は不吉にもジュリの足元にも飛散。しかし逃げようともしないジュリ。スーツェーモン「いかなる事態になったとしても、この世界は我が護る!」と宣言。カメラは上方へ、冒頭と同じく小さなRW球を映して終わる。
小中氏、サクヤモンの裏話「サクヤモンのデザインを最初に見た時、攻撃するという必殺技よりも、危ない存在を救い、邪気を浄化するような「必殺技」にして欲しいと要望した。タオモンも既に、劇中では攻撃よりも防御の力で活躍していた。人間とほぼ見えるサクヤモンに、あまり殺戮的な描写をさせたくなかった。/一応、金剛界曼荼羅という技は錫杖を振るって(突いて)、邪気を浄化するという技になっているのだが、それだけだとデュークモンやセントガルゴモンの見せ場に比べて地味になってしまう。かと言って勝手に設定を捏造も出来ない。/そこで考えたのが、「歌」であった。巫女的な描写になるが、声こそがその場を超越的に清められる演出が出来るだろうと。/しかし既に4クール目に入る時期で、全体プロジェクトは貝澤さん筆頭に次番組の開発に移りつつあった。音楽出版元に頼める時期でもなく、アフレコ時に何とかする、という非常識な手段を執らざるを得なかった。/ともあれ、ここまでのアフレコで今井由香さんの声には圧倒されてきたし、キャラクター・ソングでも強い感銘を受けてきた。今井さんに何とかして貰うしかないと。/歌詞は元希さんが書かれたが、特定の宗教に近づかない様に、言語すらも抽象化されたもの。39話のアフレコが全体的に終わってから、今井さんに残って貰い、歌をその場で、つまり歌用のブースですらなくタバックの広いスタジオで、即興でメロディを付けて歌って下さいという無理なお願いをした。/今井さんも困った顔をされていたと思うが、数分、鼻歌で試されてから、「降りてきました」と冗談めかして言って、録音され、ワンテイクでオーケーとなったのが「舞散花~サクヤモンの歌~」。後に「デジモン挿入歌ワンダーベストエボリューション」というCDにも収録された。/今思えば、演出の今沢さんにも、無茶な事をお願いしたなぁと思う。反省はしていないけれど、感謝は最大限にしている」。歌の生まれたプロセスがすごすぎて、現場は大変だったでしょうね。でもいい歌が残って本当に良かった!もう新たには収録できないしね。
小中氏「サクヤモンの進化バンクが何故CGではないのか、とよく訊かれたが、キュウビモン、タオモンの流れがそうだったからだと思っていた。荒牧さんも、同じ判断をしたのだと思う。その方が画面が映えるというシンプルな理由。CGは20年経って、ハイパーリアリズム方向への進化は目覚ましいが、テレビアニメでの部分使用という面で言うとテイマーズで描かれた表現は全く古びていないのではないかと思う」。ええ、古びてません。20年前にこのクオリティは凄いと思う。

次回予告:デ・リーパ―の危機に、四聖獣とクルモンが出来ることは?!何だか騒然としています。ファイナルコールはタカト、ルキ、クルモンかな?

(2022/2/14 記)

 

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