デジモンテイマーズ第40話感想

デジモンテイマーズ第40話「進化の輝き シャイニング・エボリューション」感想

脚本:前川淳 演出:川田武範 作画監督:伊藤智子 美術:清水哲弘 (2002/1/6 放映)

デ・リーパ―の危機に、四聖獣の前でクルモンが放った最初で最後の大技とは。やっとアークが完成し帰る目途がついた子どもたち、果たして一人も欠ける事なく帰れるのか、時間は迫る!
DWのクルモンと四聖獣の位置づけについて、小中氏のブログより「テイマーズに於けるデジタル・ワールド行きは、アクシデンタルではなく、そこに行く明確な目的が必要だと強く思っていた。テイマーは主体的に動かねばならないからだ。/クルモンが進化の輝きを持っているとすると、ではデジタル・ワールド内の進化は止まっている、と解釈出来る。スーツェーモンがクルモンを奪還すべくデーヴァを作ったのも、進化をしないと滅ぼされる危機があったからだ。/四聖獣はデジタル・ワールドを守護しているとされるが、どう守護していたのか。内部の反抗的な存在はあろうが、守護するには外敵があった筈だ。デ・リーパ―という設定は、こういう面でも必要だった。/テイマーたちがクルモンを求めて冒険した成果として、クルモンを取り戻すのは必然としても、クルモンもまたデジタル・ワールドには必要とされている。この二律背反を解決するにはどうしたらいいか─。/前川さんと話している内に、やはりデジノームだよね、となる」。皆集まった、いや一人足りない。デュークモンに負けたベルゼブモンの顛末が描かれなければ、という事で前川脚本になったという。
クルモンとの再会、デ・リーパ―からの救出においてサクヤモンへ進化し止まったかに見えた。しかし縦孔から吹き上がり四方八方に散るデ・リーパ―!スーツェーモン「いかなる事態になったとしてもこの世界は我が護る!」と宣言。吹き上がっては沈んで、リョウ曰くわざと脅かして楽しんでるみたいだと。
ジュリは一人、パペットと対話する「私たちどうしてここにいるの?」「運命なんだワン」「私たち何をしてるの」「運命に逆らってるんだワン」。未だ抑うつ状態。
テレビ局のヘリが報じている、西新宿には震源もマグニチュードもコンピュータ機器で測定不能の謎の群発地震で避難勧告が。ヒュプノスでは山木がジッポ―をカチカチさせ苛立っている。RWでさえこの異変、DWはどうなっているのか。箱舟はできるのにもう少し。一心にコンピュータに向かうワイルドバンチ。
ダストパケットが流れる嵐の荒野、一人立つベルゼブモン。無数のクリサリモンに取り囲まれて、初陣でやられた恨みがあるためか。レオモンを亡くし沈んだジュリの表情がフラッシュバック、そんな目で俺を見るな!見るな―!空は嵐でない、つまり嵐はベルゼブモンの心の中の風景。クリサリモンたちにまといつかれ苦悶のベルゼブモン、力なんか要らねえ!膝を着き、ついにはうつぶせ力尽きて。腕に巻いていたバンダナが風に吹かれ飛んでいく。
ベルゼブモンの異変では?と感じ取ったのは、関わりの一番深かったレナモン。再び吹き上がるデ・リーパ―。怖がるシウチョンを力づけるロップモン。そこへ騒ぎを聞いて現れたシェンウ―モンとバイフ―モン、四聖獣が揃った。何とも神々しい、チンロンモンの大きさは中でも圧倒的。アフレコに大物が揃って、どんな感じだったか気になります。それとも別撮り?
チンロンモンは言う「我は、無秩序な進化はデジモンの進むべき道ではないと考えそなたの光が封じられる事を望んだ。いにしえの者たち(デジノーム)が我の願いを叶え、そなたはデジモンの姿になった。しかし、もう時の猶予はあらず」。クルモンは飛び立ち四聖獣の上空の真ん中へ。チンロンモン「そなたはデジモンとして心を持った。今そなたは、何を望むや」。「クルモンにできる事、したいクル」と、くるくる回転しつつ何と祈りを捧げ始めた。この知性体が祈りという概念を持つとは思わなかった!額の赤い三角が光り始め、ここから挿入歌「Flagile heart」(作詞:ai 作・編曲:近藤昭雄 歌:AiM)が流れる。小中氏「完全にマッチしているとは言えないのだが、クルモン主体で見ると成立していると思える」。チンロンモン「古の者たちよ、クルモンの願いを叶えたまえ!」。舞い飛ぶ無数のデジノームは虹色の光を発し、クルモンの背後に女神の様な像が浮かぶ。明転。赤い三角のクリスタルが現われ、クルモンの手元に、そして「シャイニング・エヴォリューション!」
八方に飛ぶ白い光、四聖獣に、別の領域の小世界に、ベルゼブモンのもとにも、届く。ベルゼブモンを襲っていたクリサリモンはディアボロモンに進化し、後に残されたのはボロボロのインプモン。クルモンのもとに集まってくるのはディアボロモン、メタルシードラモン、ムゲンドラモン、グリフォモン、ホウオウモン、ボルトモン、プレシオモン、グランクワガーモン、ジジモン、ババモン、全部デ・リーパ―と戦うためにクルモンに進化を導かれた究極体ばかり。騒然。クルモンの力ってば凄い!光を出し切ったクルモン、落ちてきてルキが受け止める。
地面に落下してきたものをケンタが拾う、それはマリンエンジェモン(岩村愛さん)・究極体だった。ケンタになつくマリンエンジェモン、しかしむげにされて。ああもう何で気づかないのぉ?!
小中氏「いきなりソック・パペットがキャメラの前にフレームイン。これは当然シナリオにはなく川田さんの演出による」。「悲しみ、割り切れない考え、不要、不要なもの、消し去るべきもの(ジュリの口は動いていない)」ジュリ「え?」。ジュリでない誰かがそこに?急にソックパペットが唸り出しジュリをあらぬ方向へと導く。誰も知らぬ間に何者かに支配されてしまうジュリ…
苛立っている山木、そこに第一声、アークが完成した!と。拍手喝采。さっそくタカトにメールが来た、アークに乗って帰って来いと。一同笑顔。しかし、ヒロカズがジュリの不在に気付く。ヒロカズのこうした兄貴分としての目配りはさすが。
避難せずまつだベーカリーに残っていた剛弘に帰還予定の知らせが届く。
ほどなくして見つかったジュリ、しかし瞳の色がおかしいのだが、誰?!見た事もない笑顔が不気味。小中氏「もう明らかだが、ここで現れたのは本物の樹莉ではない。デ・リーパ―が樹莉をどの段階から注目していたのかは明示していないが、砂嵐を表示するだけのD-Arkを見つめている時から、樹莉という「人間」=リアル・ワールドの存在をデ・リーパーは知ったのだろう。このデジタル・ワールド以外の世界については情報を持たず、斥候(私の注釈:せっこう。敵の状況や地形などを探る事、またその為に部隊から派遣する少数の兵士の事)としてエージェント(擬体)を送ったのだ。タカトたちが当初疑わない程なのだから、再現性は高い。それだけ樹莉は研究されてきた。/アニメーション・キャラクターとしての樹莉タイプ(後にファンがジュリーパーと呼ぶ)のデザインは、瞳にハイライトが無いのと、何より色が少し違う。微妙な差異。あまりに違い過ぎたら、タカトたち、そして視聴者の子どもには信じさせられなかった」。
家族に連絡した旨報告する麗華。アークとは何なのかジャンユーに質問。これは視聴者への説明が目的だろう。「原形は我々が昔研究していた、人間とネットを繋ぐインターフェイスだよ。そいつが今、子ども達を救う箱舟として復活する」。小中氏「これは自分でもちょっと難解かなぁとも思っていたが、致し方ない。前川さんにそのまま書いて貰った」。メールによるとアークは「光の軌道」を通って現われる。タイムリミットは40分、タカトのアークにプログラムがダウンロードされ、カウントが始まる。
デ・リーパ―と戦わなくていいのか。しかし、チャンスを逃すと後がない。チンロンモンがテイマーたちに声をかける、DWはデジモンが護るからRWへ帰れ、クルモンにはこの先デジモンとして生きていけと。スーツェーモンも、人間と共に進化する道を選んだならもう何も問わぬと。別れを告げ、チンロンモンの雲に送ってもらい、最初の荒野へと戻る一同。
苦悶しているインプモン。赤い泡がRW球に向かっていき、霧散する。その衝撃で揺れる西新宿。ヒュプノスのメモリ領域が何者かに喰われていく。これではアークを飛ばせない!
荒野には、光の軌道はひとまず見つからない。もう30分を切った。黙考するレナモン、そこに風に飛ばされた赤いバンダナが。それでレナモンはルキを伴い席をはずす、必ず戻ると言って。レナモンの意図はわからなくとも、その選択が必須だとはわかっているルキ。団体行動がとれない奴、とぼやくヒロカズ。父を想ってRW球を見上げるジェン。
山木はジッポ―を握りしめる、ヒュプノスのコンピュータの処理能力は限界、しかしジャンユーはモーマンタイと。その策とは。
相手を攻撃し倒す事しか考えていなかったレナモンは、サクヤモンに進化して、守る事の大切さを感じたという。ルキも然り。インプモンを連れて帰る事が守る事につながるという訳か。小中氏「留姫の逡巡は、他の子どもたち、誰より樹莉が嫌な思いをしないか、だったろう。しかしその樹莉がベルゼブモンの命を救ったのだ、と留姫は思い返す。レナモンの判断は正しいのだと確信した」。そうだよね、もう勝負はついたし、せっかく救われた命だもの。
世界中の人に空きメモリの使用を呼びかける作戦が奏功し、膨大なアークの計算が叶い、アークの出発が可能となった。このエピソードは「ぼくらのウォーゲーム」の、世界中の人のアクセスを巻き込んだ終盤の展開を思い起こさせる。ワイルドバンチを称え、ジッポーを置いて退室する山木。この去り方は何気にかっこいい。やっぱ金髪イケメンのやることは違うね。
あと10分、光の軌道が出現し、そちらへと急ぐ一行。一方レナモンたちはインプモンを見つける。バンダナを首に巻いてやるルキ。連れ帰ると聞いて、「バカだよお前ら、ほんまもんのバカだ」と呆れつつも恩義に感じるインプモン。その時、夜が訪れる。
タカトのアークは00:00、アラームが鳴る。光の軌道を通って、ついに降りてくるアーク。デイジーのデザイン通りの姿でDWにメタファライズした。尾部が、乗せようと開いていく。「チャンスはこの一度きりだ!」とメールが。しかしまだルキとレナモンが戻っていない!誰も動けぬまま、明転。
小中氏のブログより「このシリーズに関わっている間は、それはもうずっと考えてディテイルまでも把握しており、前にこういう描写があったからとかこうしよう、という事が出来たけれど、20年という年月は恐ろしいもので、今回こうしてブログを書く為にキャプチャをして、やっと思い出した事が遥かに多く、私がぼんやりと記憶していたテイマーズの物語は「あらすじ」ですら無かったという事実に愕然としている」。
ルキとレナモンが登ってインプモンを探している「メサ」とは。侵食によって形成されたテーブル状の台地。卓上台地とも呼ばれる。メサについて小中氏「こうしたメサが荒野に多くある、とライター側から設定した事は無かったのだが、西部劇的な描写から、渡辺佳人さんがデザインされたのがメサ。/これは何なのだろうと疑問すら抱いた事もなかったが、今回見直してみると、ネットワーク創成期に、リアル・ワールドと直結していたパイプラインの痕跡ではないかと思えてきた。当然、現実世界がリニアに回転し続けるので無理が生じて廃棄された、パイプライン。或いは、創成期はもっと物理レイヤーは狭く、リアル・ワールドと近かったのかもしれない。(後略)」それほどに、美術さんの描いたメサはテイマーズの世界観に合っていたという事ですね。
今話とこの先の展開について小中氏「私が担当の41話と直結なので、どういう引継ぎをするかを前川さんとは密に行った。/すんなりとアークでタカトたちが帰ってくる─という展開はないだろうと思った。あれだけの決意をして、かなりの高さから転落してまでやってきたデジタル・ワールドなのだ。/デ・リーパ―はすぐに後を追って現実世界に侵出する。リアル・ワールド球への攻撃的な干渉は、今話で見せた時だけではなく、タカトたちがデジタル・ワールドに来て以来、時々行われたものと想定していた。今話で西新宿が謎の地震が群発しているという説明はそれを表す。だが山木はまだデ・リーパ―の存在を知らず、タカトたちの敵、デジモンの「神」の仕業だと想定している。以前、電波ジャックをして警告をしてきたのがスーツェーモンであったのだから無理もない。/ヒュプノスの物理的なパワーでワイルド・バンチが救出する、というのをぼんやり考えていたが、どうにも盛り上がらない。そこで、ネットに繋がっている人が世界にいるのだ、という現実の状況でイヴェントを作ろうとした。/これはデジモンでも「ぼくらのウォーゲーム」で近い描写があったのは知っていたから、ちょっと迷ったのだけれど、もっと現実にあったSETI@Homeといった分散コンピューティングのリアリティを盛り込めば成立すると考えた。/子どもたちが破壊的なデジモンを、仲間のデジモンと共に戦って町を守っていたという事は、世間の人は知らない。だがこれからは、もっと大事が起こる。子どもたちの存在を、作中世界の人々に知らせる意味もあった。(中略)だが、この10年の間にそうした分散コンピューティングによる大きな成果を得ようという熱は冷め、台頭したのが仮装通貨マイニングだったという……。/テイマーズの時代の「近未来」は、実に味気ないものとなっていた。(中略)嬉しい事もあった。私が2017年に、ずっと避けていたTwitterのアカウントを開設すると、世界中のlainファン、テイマーズファンがフォローしてくれている。私のアカウントはフォロワーの6割以上が海外の人なのだ。/この放送20周年ブログも翻訳ツールで読めるし、キャプチャ画像を眺めるだけでも世界のそれぞれの言語に翻訳された番組の記憶を甦らせているのだと思う。/2001年に子どもだった人達が、これからの時代を作るのだ。/それを思うと、このテイマーズの物語に私たちが込めた最大のテーマである、「運命は変えられる」(何もしなければ変わらない)というメッセージが、この困難の時代を生き抜く心の支えになっているのかもしれない。/20年もこのアニメのディテイルまでよく覚えてくれている人達が世界にいる。このアニメを苦労して作り上げた、私たちスタッフ、そしてオリジナルのキャストの熱量が、このシリーズには今尚息づいているのだ」。
私は20年前、息子と一緒に見ていました。日曜朝9時になると、テレビの前で正座して待ち構えて。なぜ20年経ってブログに沿って感想を書き直しているかというと、直接の動機は、デジフェス2021に参加が決まって、朗読劇を見るのにシリーズ全体を復習したいからでした。当時の作り手の裏話を知ってから見るのだとより深く見られるから、夢中になったのです。見直すに足る内容でした。というか、昔は難解で呑み込めなかった内容が、今ならとっつき易く少しは理解できるのでした。海外のファンが多いのにはちょっと驚き。でも、熱意は伝わるんですね。見た事でたぶん多くの世界の子どもたちが、自分の運命について考え直したと信じています。

次回予告:アークに乗って帰るチャンスは一度きり、誰も欠けずに乗り込めるのか。ファイナルコールはタカトとジェン、それとルキ?

(2022/2/16 記)

 

 

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