デジモンテイマーズ第43話「つながる心 復活のベルゼブモン」感想
脚本:前川淳 演出:梅澤淳稔 演出助手:地岡公俊 作画監督:浅沼昭弘 美術:清水哲弘 (2002/1/27 放映)
ファン投票で選ばれたのが43話という名誉。43話について小中氏「(前略)この回が人気なのは、ブラスト・モードに進化するカタルシスがあるからなのは間違いないが、前半の子どもたちの非日常的な日常風景─、パン作りなどの楽しい場面もあったからだと思う。/脚本は勿論前川さんが担当。演出は終盤の軸となった梅澤さん。/リアルな芝居、可愛い系、実在兵器バトル、デジモン・バトルと今話に込められた要素はとてもノーマルなフォーマットのアニメではない。原画は作画監督の浅沼さん含めて9人。美術は清水さんという43話」。確かにいろいろ詰め込んでます。淀小での宿泊、パン作り、RWで初めてのデ・リーパ―との実戦、自衛隊の戦いぶり、ヒュプノスの仮本部、SHIBUMIの登場とデ・リーパ―の解説、インプモンと趙先生の対話、アイマコとの感動の再会、ベルゼブモンへの進化。
ファンの人気が高いのはわかる。インプモンとアイマコのやりとりはいちいちかわいいしいじらしくてじんとくるし、ベルゼブモンはまたセリフも行動も逐一かっこいいし、とても強い。ただ、なぜ一体だけRWにて究極体になれたのか、アイマコは戦いの影響は受けないのかは自分的に謎。
トンネルの出口から出る一行、戦闘の音が聞こえてくる。見上げると、すごい大きさの赤黒いデ・リーパ―、一同愕然。突如、木々のある場所に「目」が現われる、それはADR-02サーチャーの群れ。ギルモンによると、体がわぎわぎしゅうしゅうしないから、デジモンじゃないと。ギルモンが思わず触ろうとしてタカトに止められる。触れたらデータが消えるかもしれないから。攻撃こそしてこないもののあまりに多く、ひとまず逃げる一行。居残るギルモンが可笑しい。追ってはこなかったが、隠れ場所が必要との判断、タカトが一つ思いつく。
無人の淀小、教室で一夜を過ごした一同、寝方も思い思い。朝日はまぶしく、けれど異様な風景に変わりはない。夢じゃないんだ。ギルモンがお腹空いたといい、タカトの腹も鳴る。そこで名案、パン作りのエピソードは前川さんのアイデアによるという。普段手伝いをしていたから、材料と工程が頭に入っているのだろう。パン作るぞー!ルキは朝食は和食派だというが仕方ない。
ヒュプノスは西新宿に隣接した初台にある高層ビル(東京オペラシティがモデルという。聖地判明v)に仮の本部を作る事に。展望レストランを借りて皆引っ越し作業で忙しい、無数のコンピュータやケーブル。山木はなぜ泡が拡大しないのか疑問に思う。ジャンユーは、あいつは新宿中央公園を避けているように感じると。山木は、情報収集のため「都市防衛対策本部」に行って状況を聞いてくると。
パン作りは佳境、耳をリボンで結んでいるテリアモンが超絶かわいい。形を作り終え、オーブンに入れて眺める事何度となく、このシーンが可笑しい。いろんなパンができた、楽しい朝食。
悲鳴を上げる女子高生たち、何かと思えば、例のホワイトボードを持ったインプモンが頼み事をしていた。クルモンを真似て愛想よく笑っても、今度は通りがかったサラリーマンに逃げられてしまう。人間の文字が読めず、何と書いてあるか知りたいだけなのに。そこに趙先生が。「インプモンへ。私たちは本郷のおばあちゃんのとこに行きます。アイ マコト」読んでくれた。漢字を使っているから、親が代筆してくれたのだろう。つまり親公認のデジモンだったって事?趙先生は親切にも、本郷への行き方も教えてくれる。都営大江戸線の本郷三丁目駅が5つ目だとすると、ここは最初に着いた東新宿駅の一つ先の駅、若松河田(かわだ)駅という事になる。つまり通行人を探してインプモンが一駅分歩いたという事になる。
驚かないのを不思議に思ったインプモンが問うと、先生は言う「姿形など単なる器に過ぎぬ。少なくともお前から悪しき心は感じなかったのでな」。先生の哲学ってホントすごい。ジェンからデジモンの事を聞き、実際デジモンと一緒に暮らした先生だからというのもあったろう。礼を言って去る、インプモンは強運だった。
新宿駅西口、物々しい警戒態勢。山木を送るのに同行したと思われる麗華と恵がいる。陸上自衛隊の指揮官(飯島肇さん)がミサイル発射を命令。いきなりミサイルをぶち込むのかと山木が止めるが、これは爆発しないミサイルという。つまりは偵察用だった。泡の中、ゾーンからの映像は絶句を及ぼす都庁の姿、それすらもすぐ泡に呑み込まれ。
大江戸線車内で注目を集めるインプモン、まだ世間はデジモンに否定的だ。
皆パンを食べ終わり満足、ギルモンだけはまだ食べている。レナモンが車の止まる音を感知。呼び鈴が鳴り、警戒しつつ開け誰かと思えば山木と恵、もう一人の女性は常連客でタカトと面識のある麗華だった。
仮本部の観測機器の設置が終わる。そこへ驚きの登場をしたのはSHIBUMIだった。長い昏睡状態から覚め、あいつの正体を教えに来たという。あいつはデ・リーパ―。事も無げに言うSHIBUMI。
松田家にて、山木はあの正体がDWで見たのと同じデ・リーパ―と聞かされる。
SHIBUMIによると、デ・リーパ―というのは、許容量を超えた数の活動体が増えるとその場を無に戻す浄化を始めるプログラムだという。人はコンピュータ・ネットワークを飛躍的に広げ活用し始めた。それは同時にDWというネット世界をも拡大させた。デジモンは増え、進化しすぎた。それでデ・リーパ―が消去する為に動き出したのだ。RWも、デ・リーパ―にとっては消し甲斐のあるものばかりだろう。
わかる事は何でも教えて欲しい、デ・リーパ―の目的は?!と問う山木、大人の責任、もう必死だ。しかし目的は子どもたちにもわからない。外で戦闘音が聞こえる、皆外へ出る。山木は苦渋、人間の力だけではかなわないと言っているのに。
今度は(小中氏によると)「航空自衛隊のコブラ攻撃ヘリ」が待機。撃ちまくるがペンデュラムフィートは無傷。
本郷三丁目駅で降りたインプモン、しかしそれ以上の当てはない。心細くて見上げる広い空。不動尊(モデルがありそうなので調べたが聖地は不明。小中氏も知らぬという)の門の上で途方に暮れるインプモンを、見つけたのはアイマコの飼い犬(名前は何と呼んでいるか聴き取れず)だったという皮肉。言葉が出ないインプモン、マコは両手を挙げ歓迎、アイは涙ぐむ。感動の再会。
ミサイルは命中したはずなのに、びくともしないペンデュラムフィート。そしてヘリは全滅させられる。小中氏「人的被害が出た事を、間接的にでも描いたのは本シリーズでも初めて」。
公園に駆けつけるヒュプノスのモバイルラボ車、中から走り出すタカトたち。いるのは昨夜見たペンデュラムフィートだ。タカト、DWじゃデジモンたちが戦ってる、僕たちの街は、僕たちが守るんだ!と宣言。3テイマーの久々のカードスラッシュ、マトリックスエボリューションで完全体へ二段進化、何度も言うがスラッシュ&進化バンクは本当に見応えがある。ゾーンへと向かうメガログラウモン、ラピッドモン、タオモン。山木、ついに直接子どもとデジモンがどうやって戦ってきたかを目撃する。
アイマコの祖母(宮下富三子さん)の外出を待つ間、インプモンはかくまわれていた、犬小屋で(笑
ペンデュラムフィートと交戦する完全体。指揮官は言う、我々はあんな子どもとデジモンにしか頼れないのか…?人間の兵器の限界。そんな事は無い、と山木が強気の発言。何か策でも?
ソファに座らされ、お菓子などを振舞われるインプモン。アイマコの丁重なおもてなしと戸惑うインプモンが本当にかわいい。かつて腕が取れたぬいぐるみを持って、アイマコが反省の弁。二人の取り合いのせいでインプモンがいなくなってしまったのを振り返り、謝罪する。アイマコ、ちゃんとわかってくれていたのだ、じーん。どういう顔をしていいかわからず顔を背けるインプモン。許しを乞われ、許すに決まってんだろといきがるが、その頬を涙が伝う。もう、感動です!喜ぶアイとマコ。よかったー。
ペンデュラムフィートは、何と完全体たちの技を学習し使いこなして反撃してくる。テイマーたちも衝撃を体感しダメージを受ける。小中氏「命懸けのバトルとカットバックされる、幼児と小さなデジモンの日常的な風景。これはかなりシュールだと思う」。
おもてなしに応えるのもお腹が限界、じゃあテレビ見る?と勧められると、そこに映っていたのは自分が裏切ったかつての「ダチ」の苦戦ぶりだった。俺行かなくちゃ、それはインプモンの穢れなき良心。やっぱいい奴。抵抗するアイマコに、必ず帰ると約束して出発する。追いかけてきたマコがおもちゃの銃を渡して悪い奴をやっつけてと。正義のヒーローと信じてくれてるんだ。そしてアイはがんばってねとほっぺにキスを。赤面するインプモン(笑、行ってくるぜ!
「EVO」が静かに流れ始め、足元がベルゼブに進化したタイミングで音量が上がるという演出。走るベルゼブモン、銃を持った右手が輝き、巨大なブラスター(ブラスト=爆発)に変形。背中にも大きな翼が生えて。アイ、マコ、ありがとうよ!言った瞬間、赤目から緑色の目に変化。ベルゼブモン ブラストモード!キター!そして飛翔、同時にヴォーカルが入る。西新宿へ向かう。
苦戦の続く三体、冷静なタオモンをして恐怖という表現を使わせる難敵。こうなったら究極体に進化するしかない。しかしDアークが反応しない、DWでは人間もデータだったから比較的容易に進化できた、しかしRWではそうはいかぬという事。タカトの嘆きの上を通り過ぎる影、それは昨日までの裏切り者、ベルゼブモンだった。
助けに来た、お前らに信じてもらえずともよい、信じて待っているパートナーの為に俺は戦う!ブラスターから放つデスストリンガーでペンデュラムフィートのケーブルを切断。動きの止まったそれを三体が総攻撃し撃破した。それはジェル状になって消失する。やったー!暗転。
ゾーンからは離れた公園の一角にて、ベルゼブモンと三体との対話。裏切りの事実でできた溝は少しは埋められたのか。皆笑い合う。その時タカトの視界を一瞬横切った、それは、松本に送ったはずの加藤さん…?
今話について小中氏「エピローグが若干不穏な雰囲気を生成するも、43話はテイマーズでは珍しく明るい雰囲気でクリフハンガー無く完結する。これも好印象の一つになったとも思う。(中略)今話は特別な演出ではなく、走るインプモンの足がベルゼブモンに変わる、というカット繋ぎのシンプルこの上ない見せ方ではあったが、そこに至るまでの積み重ねと、高橋さんの気迫のこもった芝居、そして音楽の力が重なり、かくも名シーンとなった。(後略)」。そうそう、この一連のシーンは本当に高ぶります。ちなみにクリフハンガーとは、作劇手法の一つで、劇中で盛り上がる場面を迎えた段階で結末を示さないまま物語を終わりとすること。
ベルゼブモンについて小中氏「ベルゼブモンのオリジナル・デザインがブラスト・モードの方で、赤目は後から追加されたという説がある様なのだが、そうだったのかもしれない。1話のオープニングから、シルエットで登場しているのはブラスト・モードだったのだから、その方が蓋然性がある。/ベルゼブモンが人気なのは、ハカイダーみたいなものなのかな、と私は思っていた。私に近い世代では「人造人間キカイダー」に登場する宿敵ハカイダーは極めて人気が高かった。ベルゼブモンもハカイダーと同じくバイクに乗っていた。イメージ・ソース的にはあったかもしれない。ダークヒーロー、アンチヒーローの系譜。/多くのファンがベルゼブモンを好きという一方で、当時のリアル子供視聴者だった人の中には、未だにベルゼブモンがデジタル・ワールドでした事は許せない、と強く思っている人の話も聞いたりして、受け取られ方は様々なのだな、と17年後辺りに考えた記憶がある」。ハカイダーは記憶にないんですが、正統派ヒーローとは違う魅力、カッコよさ。作り手側としては当然良しとするだろうし、私もいじらしく反省・後悔したから良しとしてしまうが、許せない心情の人もいるのはそれなりに理解できる。
次回予告:RWで究極体になれない…鍵を握る謎の少女!ファイナルコールはタカトと、アリス?
(2022/3/22 記)