デジモンテイマーズ第44話感想

デジモンテイマーズ第44話「謎の少女!奇跡を運ぶドーベルモン」感想

脚本:小中千昭 演出:今村隆寛 作画監督:山室直儀 美術:渡辺佳人 (2002/2/3 放映)

学者によるデ・リーパ―の解説、葛藤を超えて支える側に回ってくれた親たちの愛、謎の少女とドーベルモンが伝えに来たというDWの進化の力、それらを踏まえテイマーズは立ち上がる!
今話を書くにあたって小中氏のブログより「今話担当演出の今村さんは、私が書いた13話からテイマーズに参加され、とにかく13話のストイックでハードな画面作りに感銘を受けていた。今話がテイマーズでの最後の担当となるが、今話のメインとして扱わねばならなかったのは、Vジャンプ誌で公募され選出された、読者デザインのデジモンを登場させるというもの。/ストーリーとしては、既に地上世界に舞台を移しており、新たにデジモンをリアライズさせるには、相応の役割が必要だった。他のデジモン・シリーズなら、単独で来た理由も自ら説明させられるだろうが、テイマーズに於ける、ヒーロー・サイドのデジモンにはテイマーが必要という原則がある(クルモンは除く)。/新キャラクターをこの段階からラストまで登場させるのは、作劇上好ましくない。という事で、「謎の少女」という描き方をするのが唯一解であった。シナリオ・タイトルは「黒の少女The Girl in Black」。制作時の2001年時点で、ゴシック・アンド・ロリータの装束を取り込んだアニメは無かった。私は幾つかのファッション雑誌の切り抜きを中鶴さんに送って貰って、アリス・マッコイをデザインして貰った。2話だけの登場となるので、とにかく印象を強くつけたかった」。
単にファンとして楽しんでいるデジモンデザイン公募の後には、こんな裏話、工夫と苦労があったんですね。相応の役割としての、ドーベルモンが受けた四聖獣からの命。ゴスロリ・キャラは確かに印象が強い。その後はアイドルアニメなどで一般化しましたけど。単に小中氏の好みという事でもなかったようだがどうなんだろう。唯一解、なるほど。確かに謎で、少なくとも今話ではアリスという名である事、金髪碧眼で欧米人であろう事、ドーベルモンのテイマーである事、ドルフィンと長男とのスリーショットの写真から恐らくはドルフィンの孫娘である事しかわからない。その役割さえも説明がなく、かろうじてビデオの外箱で「四聖獣の力を授ける。それはテイマー自身をデータ化するデジタル・グライドだった。」とネタバレしていることから推測するしかない。ドーベルモンにしても、どういう経緯でアリスのパートナーとなり、DWの奥底のスーツェーモンとチンロンモンからどうやって命を受けたのか、ほぼ説明がなく、不親切というかあくまで「謎」としか言えないのだろうか。
冒頭は報道番組で始まる。小中氏「Act.1は、テレビの報道特別番組を入れ込む構成。この頃の私が好んで使った構図。テレビを見ている視聴者を、そのまま目撃者にさせるメタ的なナラティヴ」。メインアナウンサー(声優さんは不明)が伝える、都庁を中心に正体不明の空間が占拠と。新宿駅東側の土岐アナウンサー(宮下富三子さん)が、異常空間の広がり、鉄道の機能が失われた事や暑さ等についてコメント。暑いと言いつつダウンジャケット姿で大丈夫?
淀小、何とセミが鳴いている。いくら数日暑いからって、幼虫が2月に孵化するのかはちょい疑問だが。また校内での朝の訪れ。まるで夏休みの様。デ・リーパ―の影響力の強さに、ジェンは少し弱気を口にする。タカトもうつむくばかり。おもむろに言う、昨日の夕方加藤さんを見たと。その後松本に電話をかけてみたら、ジュリは居なくなったそうだと。驚くジェンとルキ。夕方までは松本にいたはずなのに。ルキもジュリがおかしいとは感じていた。ショックな事があったからとジェン。でもそれだけじゃない気がして、というタカトの違和感は、実は当たっていて。
テレビに次に出たのは内原戸哲夫(ないとはらてっぷと読むそうで。ミスカトニック大学とは、ラヴクラフトの小説群に登場する架空の大学名からの引用という。菊池正美さん。)。異常空間は、ネットワーク監視システムの一つであるヒュプノスから現れたと推測。巨大生物については、デジモンなる仮想生物が、物質世界に疑似生命的な肉体を持って現れた、と。デジモンと異常空間は関係ありという見解。
一瞬、カットインされる、少女と大きな犬。
そして映し出される異常空間の内部、都庁の変わり果てた姿(陸自が映像提供)。
まつだベーカリーへ行くと、張り紙が「子どもたちへ 留姫さんの家に来なさい」。保護者が、思い当たる場所としてここを選んだのだろう。一番驚いたのは当のルキ。
「正体不明の活動体」と紹介される、サーチャーとペンデュラムフィート。これもデジモンなのかとの質問に答える、パロアルト大学のロブ・マッコイ教授(=ドルフィン)。違うとの見解。デジモンは、1980年代と比べて飛躍的に進化しネットワーク内で独自の世界を作り上げている。本来デジモンは人間、特に子どもとのコミュニケーションでより強く、知的に進化する存在で、私たちの世界を消し去るなどしない。(このセリフの間に、ドルフィンの長男キースがデザインした初期のデジモンのデザイン画が映る。ボタモン、ポヨモン、キウイモン、クラモン、メラモン、ジャガモン、ナイトモン、アグモン、パタモン、ヌメモン、ウパモン等。子どものイマジネーションは凄い。)デ・リーパ―について語るとなると、表情は硬くなり。まったく別種の、より原始的な人口知性消去プログラム、デ・リ―パーが異常進化したものだ、と。
靖国通りを東へ、神楽坂へ向かう一行。突拍子もなく、罠かもと言い出すルキ。実は家に友達を呼んだことなどないようで。レナモンに促され仕方なく歩き出す。その時、反対側の歩道を走る少女の影。気づいたタカトには見えた、ジュリが。ジュリの独白「この混沌の世界は一体なあに?誰もが勝手に活動して生きている。そんな事に価値なんてある?」これはジュリ本人ではなく姿を借りたデ・リーパーの独白に他ならない。その少女の影はいつの間にか消えてしまう。
ペンデュラムフィートの記録映像を示す、アイシュワリャ・ライ(=カーリー)、パロアルト大助教授。デ・リーパ―は本来、単に自らを増殖させ、そのメモリ・フィールドをゼロにするだけのもの。ところが、ネットワークでデジモンを吸収した際、デジモンの活動能力を学習してデ・リーパ―がよりアクティヴに動くためのエージェント、つまり肉体を作ったとみている、と。
いや、私には難しい。何とかついていかねば。
確認しに行ったタカト、けれど今誰もおらず、ただレナモンが気配だけは感じたと。小中氏「タカトを心理的に追いつめているシチュエーションは、やはりホラーのナラティヴだった。ホラーにしようと思っていなくても、ホラーになってしまう。/今話に登場する樹莉(ADR-01)のダイアローグは、やはり浅田葉子さんに演じて戴いた「serial experiments lain」での、岩倉玲音の抑圧的妄想の中で聞いた瑞城ありす(浅田さん・演)のダイアローグを想起させながら書いたのは事実だ。テイマーズの物語としては、「これは樹莉の姿をしているけれど樹莉ではないよ」というメッセージでもあった」。そう、ジュリの声だけれども、ジュリ本人の発言には聞こえない。
ヒュプノスの仮本部。山木が一人責任を抱えるのを案じる麗花(注:今まで「麗華」と記載してきましたが、「麗花」の間違い。資料「デジモンアニメ―ションクロニクル」の誤植が原因でした)。あなた、と呼びかけて室長と訂正するところ、芸が細かい。山木は応じる「一人だけで何かができるなんて、もう思っていないさ。それに、ネットワークは支配されるべき世界だとも思っていない」。そう、戦友ワイルド・バンチがいて、子どもたちがいて、ネットワーク世界は思いのほか奥深い。このタイミングでジャンユーがデ・リーパ―の最初期データの入手を伝えに来る、我々にはできる事がまだある、とうれしそう。山木も思わず笑顔、ヤバ。
ルキの家に入ると、玄関で出迎えたのは保護者―ズ。数々の手作りのごちそうと笑顔でまさかの歓待をされる。ギルモンとテリアモンはかぶりつくが、子どもたちは遠慮がち。だって、どうせまた心配かけるんだもの。
淀小の校庭に何か描いている、ジュリと一緒にいたはずのクルモン。インプモンにからかわれて。この絡み、永遠にかわいい。ジュリがいなくなったとの証言。ジュリとの言葉に表情を曇らせるインプモン、ジュリや仲間のために俺が何とかしなきゃと自責の念、仕方ないんだけどなんか気の毒。
テレビにて、ネット管理局監査委員の会見。ヒュプノスが批判にさらされる。西新宿の異変についても対策を問われ、混乱する会見。ここで西新宿の動きの一報が。それはADR-04Bubbles(荒牧伸志さんがデザイン)の出現と、襲われるドーベルモンとアリス。
ごちそうを食べ尽くして。何の遠慮か一人膳のレナモンは、異変に気付く。タカト、このお呼ばれの理由を訊ねようとして。
最初期のデ・リーパ―に見入るSHIBUMI、DWで見たのは他のデータに触れただけで消し去るデ・リーパ―だった。しかし西新宿のそれは違う。バベルが受信した衛星写真では、緑の多いところを避けている様に見える。いかなる理由で?
聖地について小中氏「再開発された新宿駅の南側は、新宿サザンテラスという、桟橋の様な空中の遊歩道になっている。/13話で、インプモンがクルモンを襲っていたのもここだった。向こうに見えるエンパイヤ・ステートビルもどきの建物は、ビルの恰好をしたNTTの無線タワー。で、この線路をまたぐ橋も、私はサザンデッキの一部だと思い込んでシナリオにはそう書いていたが─、これはイーストデッキ、というのだそうだ。東側が高島屋+東急ハンズなどのビル。かなり広い橋。(後略)」。
「浮浪小学生と言われても仕方のない日々を送っていたタカトたちにとって、親たちからの歓待は、今後の活動を抑制されるのではないかという恐れになっている」。タカトが話しかけたところで、Dアークがアラートを鳴らす、強いデジモンが現われた反応だ。保護者―ズにも聞こえているが皆決意のまなざし。一人ルミ子は視線を落とすが。レナモンが素早く偵察に消える。もうだめ、行かなきゃ!
すると驚いた事に保護者―ズも総立ち、深い葛藤を抱え話し合いの末、子どもたちの本当にしたいっていう事を止める権利も親にはない、と全面応援の姿勢を打ち明ける。親子の概念のないギルモン・テリアモンにはどう映っただろうか。若いルミ子だけは涙を隠せなかった。最後の言葉、締めは最年長の聖子。私たちがあなたたちを支える、だから、自分の命だけは大事にしてちょうだいと。はい、と決意の3テイマー。グラウモンに乗って家を出ていく。
土岐アナの中継、南新宿デッキの方で、と。衝撃音、映るのは、デ・リーパ―・ゾーンの中から出てきたバブルス。
山木のコンピュータに、通知音がする。まさかあの、DWに沈んでいったアークが?そこへ麗花からデジモンと子どもたちが出動した報告が入る。
キュウビモンはすでに交戦中、グラウモンとそれに乗った子どもたちも明治通り側からデッキに到着。ガルゴモンのガトリングアーム、グラウモンのエキゾースト・フレイムにてバブルスは消滅、そう強くない相手。バブルスに狙われていたのは誰ともつかぬ謎の少女と大型犬。
公募のファン・アートであるドーベルモンについて小中氏「ドーベルモンのアニメーション・デザインを最初に見た印象は、恐ろしげな顔つきながらも、ドーベルマン犬らしく忠実性を持っている─と感じた。マスターにただ従うのではなく、忠心で使えているという様な。/リアル・ワールドで究極体進化させるには、まだ人間側の準備も整っておらず、デジタル・ワールド側から干渉しての支援しかない。だが現状のデジタル・ワールドでは四聖獣を筆頭に、デ・リーパ―と生存を賭けた戦いをしている。/「人間と共に進化するデジモン」と、ギルモンやテリアモン、レナモンらを呼んだのは、チンロンモンとスーツェーモンだった。彼らの力を運んで貰う役割を、ドーベルモンに託した」。これも「唯一解」というやつですね。
通信の主は誰なのかと山木。そう、ワイルド・バンチならわかるはず…。ドルフィンに声をかける。
立ち上がった少女(今井由香さん)は口を開く、「デジモンと戦うテイマー、探してた」。ドーベルモン(高橋広樹さん)が問う、この者たちなのか?「そうみたいだよ。良かったね」妙に淡々としている。
山木はドルフィンに訴える、アークのプログラム即ちデジコアが自分の意思を持ち行動したのでは。ドルフィンは答える、デジモンは我々の思惑、設計を超えた何かを、予め持っていたのかもと。写真立ての写真にはアリスの姿が。アークが何か伝えようとしている、と山木。
アリスはパートナーをドーベルモンと紹介する。現われたのは最近、来てくれてうれしかったとも。しかしどこか寂しげ。なぜここに来たの問われて、アリスは哀しい顔に。伝えに来た、とドーベルモン。何を伝えに、と聞く間もなく衝撃が走る。巨大な上にパワフルなADR-05CreepHands(荒牧伸志さんがデザイン)によりイーストデッキが崩落する。小中氏「デザインを見た時、ここまで巨大だとは思わなかった。シンプルなライン、エネルギー供給源の共通性以外に、ADRシリーズに特別な共通点は3デザイナーによって特に設けられていなかったと思うが、板坂(色彩設計の板坂泰江)さんの色指定でこうした色味が共通されていた」。
ならばと三体は完全体に進化、しかしクリ―プハンズはあばらはスカスカなのに、両腕でメガログラウモンとラピッドモンに掴みかかる、すごいパワー。究極体に進化せねばという思いは切実。アリス「だから、私が来たの。この子を連れて」。スーツェーモンとチンロンモンの命により伝えに来た、とドーベルモン。
アークが伝えたかったもの、それはDWから見たRWがデ・リーパ―に食われようとするさま。それを止めようとスーツェーモンが戦っている映像。見て驚く山木たち。
ドーベルモンは連れて来てくれた礼を言い、アリスに離れていてくれと。目を背けるアリス。宙へ駆けあがったドーベルモン「四聖獣はDWでデジモンたちと共に、デ・リーパ―と戦っている!しかし、デ・リーパ―の最も進化した部分がこの世界に来ているのだ。お前たちが戦わねばならない!デジモンと共に戦うテイマーたちよ、四聖獣からお前たちに力を伝える!」するとドーベルモンの姿は光の帯となり、赤(スーツェーモンの力)と青(チンロンモンの力)の光線となって舞う。こうしてアリスはパートナーを失う。初めからこうなるとわかっていたから物憂げだったのか。これがDWから伝えられた力。
タカト「この世界では僕たちが戦わなきゃいけないんだ!」新たなる決意、3テイマー気を取り直しパートナーに呼びかける。必死に身を起こす、倒れたパートナーたち。Dアークを高く掲げてさあ進化だ!小中氏「貝澤さんが創ったオープニングで、第1話から描かれてきた「D-Arkを掲げるテイマーたち」という構図を、やっとここで劇中に採り入れられた」。キター決めポーズ!やばぁ。
今話について小中氏「前半は冷徹に客観描写。中盤では心温まる家族愛を、そして終盤は謎の少女とそのパートナー、とまではなっていなかったかもしれないデジモンによって得た力で、次回はやっとリアル・ワールドでの究極体進化を果たす。(中略)私が今気になっているのは、ドーベルモンを応募してくれた人が、どういう思いでこの作品を観てくれたのか。テイマーズの物語はこれまでだが、デジモンの中には残り続けている。(中略)聖子、ルミ子、レナモンが多い今話で、更に少女声。今井由香さんのこれはもうギフトとしか言えない。最初、関プロデューサーにアリスも演じて戴くと聞いて、内心どうなのかと思っていたけれど、アフレコで仰天した。/タカトがD-Arkを掲げる前、絵ではそれほど高まっていないのだけれど、津村さんは目一杯の力を入れていたのが、見直すと印象的だ。そう、タカトはそういう高まりをしていた筈だ。/第三部に入って、アナウンサーといったキャラクターがクレジットされなくなってしまった。東映アカデミー所属の若手の方が、初期話数からずっと支えてくれていた」。う~んどうなんだろう、作品云々以前に入選し登場できただけでも感激すると思うが。ハスキーで物憂いアリス、今井さんの演技の幅は本当にすごいですね。ファンとしては、どんな脇役でもクレジットは付けてほしいです、無駄な役なんて一つもないし、端役からスターになっていく声優さんもいるのだから。私はデジファンとして、デジモンに出られた声優さんは有名無名も全員応援したいのです。

次回予告:ドーベルモンの力のおかげで、究極体に進化できる!僕らしか救えないんだ!ファイナルコールはジェンとルキ。

(2022/3/27 記)

 

 

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