デジモンテイマーズ第47話「デュークモンを救え!グラニ緊急発進」感想
脚本:まさきひろ 演出:芝田浩樹 作画監督:伊藤智子 美術:渡辺佳人 (2002/3/3 放映)
小中氏の言うテイマーズ最大のトラウマ、ジュリの運命に関するこだわりの詳細が明らかとなる。猛省した父親の呼び掛けは届くのか。一方でエージェントを倒すには、グラニの完成が待たれて。
最終話へ向けて小中氏のブログより「(前略)必死に子どもたちを救おうとしていた山木とジャンユーは、子どもたちがデジタル・ワールドとリアル・ワールド、どちらも救おうとしているのかもしれない、と述べた。確かにそれは事実なのだが、子どもたちにそんな重責を背負わせてまで、戦わせたくはなかった。/タカトは、そしてジェン、留姫─、ギルモンたちは「友だち」を救い出したい。このシリーズの最終回に向かう主人公たちのモチベーションは、シンプルにそれに絞りたかった。世界を救うのは、その結果もたらされたもので良い。/当然、強固な障壁が樹莉を囲い込んでいるのだが、何よりもタカトたちを退けていたのは樹莉の心的トラウマに他ならない。レオモンというパートナーを失った悲しみだけで、そうした状態にまでならない。/今は継母と暮らしている─という設定から、樹莉の過去が推し量れる。泥臭いまでの親子の情と、近似デジモンをデジタル・ワールド内で構築してリアライズさせる、アニメとしてはハードめなSFを盛り込むプロットを、まさきさんが最後の担当話で作った。/ベルゼブモン周りのエピソードを演出されてきた芝田さんは、最大の見せ場であるエピソードではなく、その前の今話を最後の担当話にされた。(後略)」。無印、02とその劇場版は、選ばれし子どもたちによる世界救済譚であるのが明らかだが、テイマーズは違うという事だ。子どもたちを退けていたもの、それはまさにジュリ自身の心であった。
テイマーズが集結しピンチを一時的に切り抜けたものの、ジュリが囚われているデ・リーパ―は拡大を続けている。
クルモンがベルゼブモンに呼びかける、その名前に反応するジュリ。その名は、ジュリにレオモンの運命たる死を思い起こさせる。ジュリが感情を爆発させたのはその時が最後で、後にふさぎ込んでいく。「運命」。レオモンの死だけでなく、実母の若くしての死が、運命という言葉に重みを与えていた。
ジュリが「運命」という言葉にこだわる理由が今話で具体的に描かれたのは大きい。
人は大切な人と死別すると、まずアルフォンス・デーケン氏による「悲嘆のプロセス12段階」をたどる。ただ、個人差があり、12段階全てを通るわけではなく、この順序通りに進むわけでもない。時に、複数の段階が重なって現われることもある。詳しくはデーケン氏の文献を参照されたい。
第1段階:精神的打撃と麻痺状態
第2段階:否認
第3段階:パニック
第4段階:怒りと不当感
第5段階:敵意と恨み
第6段階:罪悪感
第7段階:空想形成、幻想
第8段階:孤独感と抑うつ
第9段階:精神的混乱とアパシー(無関心)
第10段階:あきらめ、受容
第11段階:新しい希望
第12段階:立ち直り
このような悲嘆は、生理的な自然な反応である。ただし、重い場合はうつ病などの病理が見られる。ジュリの場合、父親が家族の死を「こういう運命だったんだ」という一言で片付け、自身やジュリを必要たるべきグリーフワーク(死別後の喪の作業)から遠ざけ現実逃避した事で、ジュリの自然な悲嘆が行き場を失くしてしまったため彼女はPTSDに罹患したと思われる。グリーフワークとは、死別という悲しい現実を受け止め、乗り越え、適応する過程のこと。
また、グリーフワークを助けるべき存在であるはずの医師・看護師(当時の呼称は看護婦)・他患からグリーフケアを受けられなかったことも重く作用したと思われる。「運命です」と医師、「受け容れなさい」と看護婦、「はい」とうなずく父親。彼らが当時現実にはどういう言動であったかはジュリ自身の記憶からは断定できないが、幼いジュリの目には少なくともグリーフケアとは逆の言動に見えたと思う。いたたまれず走り出すジュリを、幻影が重ねて追いつめる。運命の意味すらわからず、誰もケアしてくれない、孤独と恐怖。挿入される広がるデ・リーパ―は、不安の象徴。
ジュリのこの記憶について小中氏「ある意味で、極めて判り易い絵解きではある。しかしこの樹莉の悪夢は、当然ながら本当の出来事の記憶では有り得ない。3歳程度の子どもの記憶なのだ。死とはどういう事なのかすらも、まだはっきりとは判っていない時分の出来事と、その後に思い出す内に、悪夢の中で見た記憶とが合成されている。/デ・リーパ―は、この混乱した樹莉の記憶を、実際の記憶だと認識したかもしれない。前話で「人間は不合理であり、存在する価値が無い」と断言した背景かもしれない」。「(中略)しかし、大人が本気で子どもに伝えようとしたら、怖さ恐ろしさも本気で描くのだ。子ども向けだから表現を和らげるべき、というのは犯罪とか残酷な場面に関してはそうだろうけれど。/大人になっても忘れられない程のショックを受けて貰う。それがテイマーズを体験するという事で、私たちはそう作っていた。だからデジモンテイマーズはあくまでも、子ども向けアニメなのである。/まさきさんがこの誇張した樹莉のトラウマを冒頭い持って来たのは、リアル・ワールドに帰還しても迎えに来なかった肇が、なぜそうだったのか?を掘り込んで中盤の意外な展開を描く為だった。/結果としてだが、この47話の冒頭部は、演出も作画もキレッキレのウルトラ抑圧場面に仕上がった。だが、意外とファンには、この場面がテイマーズの最大のトラウマ場面とは認識されていない様で意外だった」。
早朝の初台近く。ヒュプノスのモバイルラボ車でタカトたちを送る剛弘。ゾーンは場所によっては一日に1~1.5キロ拡大しているという。ルキ宅も被災したので、家族とテイマーもヒュプノスの仮本部へ合流することに。ただ一人、ジャスティモンは単独での交戦へ向かった。美枝らによって配られるおにぎり。聖子らの声で、アドリブで、非常時の炊き出しの空気感を演出。
デイジーが手掛けた、クロンデジゾイド製のアークの新装備。ゼロアームズ・グラニと命名した、と山木。グラニは、伝説の騎士、ジークフリードの愛馬の名というから、山木も意外と文学青年でロマンチストだ。
SHIBUMIは、ジェンにDアークを借りる。グラニのリアライズに必要だという。リアライズとは量子テレポーテーション、つまりDWの情報を転送し情報エネルギーを物質に量子変換すること。その逆も可。そのカギを握るのがDアーク。SHIBUMIについて小中氏「諏訪太朗さんの今話の演技は、まさに我々のイメエジ通り。最初はやはり不慣れな印象があったが、この頃になると、台詞の調子を変化させたり工夫されている」。
隅にはジュリの父と継母が。ジュリ不在が心配で松本から上京していた。タカトが松本にジュリを送った時の冷たい態度と違うのがタカトには意外。
ジャンユーのパソコンをのぞき込むケンタとヒロカズ。デ・リーパ―の原形が、進化して赤い泡となった。シウチョンは主張する、まん丸の中にクルモンとベルゼブモンが入っていったと。そこにはジュリもいる、なので情報が集約しているもカーネルを叩くことはできない。
席を外す肇に、タカトはジュリは悪くないと必死に訴える。しかし肇は無言。この時すでにラボ車の強奪とジュリの救済を目論見ていた。
ジュリの継母の相手を、ルミ子がしている。同じく娘が危機とは言え、実母に申し訳ないという静江に、ルミ子がかけられる言葉はほぼない。そんな会話を立ち聞きしていたルキ。笑顔で何不自由なさげに見えたジュリがそんなシリアスな立場だったなんてと困惑。自分はがんばるしかない、と決意。
警官の制止を振り切り侵入するラボ車。山木のもとに苦情の電話が入る。運転者は肇だった。
停車し、暑さに上着を脱ぐ肇。娘の名を叫ぶ。それはクルモンに届いてはいたが、ジュリは無反応。
不器用という言葉は時に「素朴、計算高くない」といい意味に使われることもあるが、この父親は自称不器用で、本当の悪い意味での不器用なのだった。厳格で温かみや柔らかさに欠け、娘の存在を肯定的に評価しない。娘を想う気持ちにただ素直になればよかったのに、今さらデ・リーパ―に決死の懇願や攻撃を与えても仕方ない。そう、私はジュリに肩入れするあまり加藤肇の気持ちはわからんでもないが同情はしないし、こいつのせいでと怒りさえ覚える。
甘やかしなどと、流涙し激しく反省する肇。すると、ジュリの声で「運命」が繰り返される。小中氏「ADR-07 Paratice Head、どういう意図でこう命名したのか全く覚えていない。口がいっぱいあるという渡辺けんじさんのデザインを見て、今話の「運命」連呼が言わば最強の武器として使われている」。タカトたちも駆けつける。
ケンタとマリンエンジェモンは不在、どうして?オーシャンラブが効くとややこしくなるから?
タカトは、デ・リーパ―が加藤さんの声を盗んだと、肇に告げる。パラティスヘッドをにらみつける肇。すると腕が伸びて来てビデオカメラ(陸自から盗んだ)で肇の解析を始める。「加藤樹莉のメモリーと照合」。冒頭の悪夢場面が高速逆転再生される。人、お父さんである事を解析。急に動きが鈍くなる、レナモンによるとデ・リーパ―には親子の概念がないから。「別のメモリーから検索」それは24話「旅立ちの日」。土下座し懇願する肇、俺が身代わりになるから!「採取した加藤樹莉のメモリーと著しく矛盾」「なぜ、なぜ─」。ルキが怒る、お前なんかにジュリの気持ち、わかるわけない!
肇は腕にしがみつく、娘を返せ!そこでルキがサクヤモンに進化し、(「One Vision」サクヤモン・イントロ版)ふり落とされた肇を受け止める。
クルモンは松本にいたから肇を知っている。ジュリもやっと目を上げ父親を視認する。「加藤樹莉の思考、アクティヴ・モードに移行したのを検知」それ以上加藤さんの心を覗くな!とタカトが渾身の進化。しかしデュークモンはアームに掴まれて。
ワイルド・バンチも経過を見ていた、なぜ親子の情などを、デ・リーパ―が知りたいのか。SHIBUMIが答える、未知なるものが怖いからと。
そこへジャスティモンが加勢。三体揃った人型究極体。しかし口型のボールに拘束されてしまう。それを見ていたジュリ、無理、だって運命だから。運命は変えられる、とルキは叫ぶが。デジモンが、娘のために戦っている─肇はヒロカズの制止を振り切りラボ車を突撃させるも、不発に終わる。悔しがる肇。三体を急に手放すパラティスヘッド、標的を肇に切り替えて。防戦するデュークモンは再びとらえられて。そこで背後へ回るジャスティモンとガードロモン。ケーブルの切断に成功、消えるパラティスヘッド。
すると今度はADR-08 Optimizerが登場。パラティスヘッドよりさらに巨大でバブルスを擁し、まるで移動要塞と言った威容を誇る。バブルスの攻撃をさすがによけきれず目を回し倒れるガードロモン。バブルスはきりがない。巨大すぎて高すぎて攻撃できない。
上に届きさえすればというデュークモンの渇望が、DW内で完成されつつあるグラニに届いた。必死に羽ばたこうとするグラニ。量子テレポーテーションの準備は完了した。そこでSHIBUMIが取り出したのは、ブルーカード!カードスラッシュ!
量子テレポーテーションが始まり、オプティマイザーの向こうの空にデジタルフィールド出現、グラニ、リアライズします!と麗花と恵。
飛翔はできないデュークモンが強い意志で届きたいと願うと、それが光のエネルギーになりリアライズできずにいるグラニへ届く。ついにグラニがリアライズする。もう、じらすんだからあ。ここから「デジモンテイマーズのテーマ」が流れる。赤と金に彩られたグラニ。デュークモンのもとへ回り込み、搭乗。さあ上へ。オプティマイザーのパワーの供給源である太いケーブルを断ち切って、勝利!これがあのアークだなんて。
肇はルキとリョウに支えられ起き上がる。タカトは大声でカーネル内のジュリに呼びかけ、助けると決意を新たにする。他のテイマーもうなずく。ジュリに、その声は何とか聞こえていた。
小中氏「今話登場のADRはどちらも渡辺けんじさんのデザイン。登場回を均等に配分とか配慮した記憶はなく、これは最終、これは群れでとデザインで分けたらそうなった。/中鶴さんのデザインのADR-01Bの羽根の形状はこっちが元だと思う。相互に刺激し合って描かれていった」。刺激し合い生み出していくクリエイターたち、かっこいいです。
肇について小中氏「佐藤晴男さんは、「大人の男性ゲスト」、黒服の男(山木の部下)、監査委員などと共に、加藤肇を演じられてきた。どれも感情を抑えた芝居が多かったのだが、今話ではアニメ―ションでも感情が爆発している。それをリアルな演技で、娘の愛し方が判らない父親というキャラクターに説得力を増して戴いた。/グラニのリアライズ・プロセスは私主導で細かく話し合ったが、樹莉の父親は流石に出るよね、的な話をしただけで、ここまで深掘りされるとは思っておらず、とかく大味に見せ場を盛り上げがちな終盤で、極めてウェットなドラマとグラニ登場のカタルシスが繋げられた。今話も次話も、私では書けないドラマが描かれた」。あれだけドラマティックなのに事前に話し合いがなかったとは意外。個人的に肇に文句を言ったけど、それだけ感情移入したという証拠。まさきさんのお話作り、大好きです。
今話に関して、YouTubeでのまさき氏のコメント(公式アニメchアニメログ)「長男がまだ幼かった頃で、子育ての大変さなど、樹莉の父親に反映されていると思います。/ところでその長男に1、2年後かわいいガールフレンドができました。/名前はジュリちゃん!/嘘みたいな本当の話。/運命なんだワン?/テイマーズは僕はここまで。/書いてて楽しかったです。/参加できて本当に幸せでした。」いやはや、現実は小説より奇なり。
次回予告:またも変化するエージェント。改心したベルゼブモンはジュリを救えるか?!ファイナルコールはタカト、ジェン、ルキ、ベルゼブモン、とギルモン?
(2022/4/24 記)