デジモンアドベンチャー第31話「レアモン!東京湾襲撃」感想
脚本:まさきひろ 演出:芝田浩樹 作画監督:八島善孝(原画も八島さんお一人) 美術:飯島由樹子
ヴァンデモンより先に8人目の仲間を見つけたい子どもたち。しかし、光が丘にはいなかった。もしやお台場に…ひとまず、久しぶりに帰宅することに。
タイトルコールは光子郎、シルエットはレアモン。光子郎の成育歴を扱った重要な回。光子郎をフィーチャーし、成育歴の真実というシリアスな重さと、バトルのダイナミックさでバランスを取り、さらに8個目のデジヴァイスの迷走で他のキャラを絡めたお見事な構成となっている。
●光子郎:知りたがりだけれども友人はメール仲間中心という、他人とは距離を置く性格の理由がついに明白となる。自分は実子ではない。なら何処の何者か。あまりにも重い問い。アイデンティティの不確かさ、不信感、不安、孤独。他人をどこか心から信じられず他人行儀に振舞う癖はそこから。その穴を埋めてくれるのが並々ならぬ探求心であった。「どうもご心配をかけました」「ありがとうお母さん、お母さんには本当に感謝してます」それは養子である自分を育ててくれた事へのごくごく正直なコメントであったろう。それが母の疎外感を刺激するなどとは考えもせずに。
帰宅直後に、太一の家へと母に嘘をつき、スーパー「KaKuetsu」(現在も実在するマルエツお台場店のパロディ)に鍵を買いに行く。テントモンを隠さねば。冒険という真実を打ち明ける気など毛頭ない。それにしても小4が夜に怪しげな容姿の者と二人でタクシーって、よく不審がられなかったな。鍵といい、台場から芝浦までのタクシー代といい、相応の(数千円単位の)お小遣いをもらっていると推測する。
石板の謎解明の時もそうだったが、特別に太一にはただならぬ信頼を寄せていることがまた語られた。太一母が光子郎からの電話を敢えて起こして知らせたのも、二人が大変親しかったからであろう。
●テントモン:もう完全体にも進化できる、その実績が単体での出陣という自信の裏にはあったろう「相手にもよりますけど、ワテらだけでもなんとかなると思いまっせ」。おいしいものを作ってくれてと光子郎母に全面的に好意的。光子郎がいかに愛されているかが伺える態度。「光子郎はんは8人目を探しなはれ」「いいのか?」敬語でないここ、好きです。信頼関係と自信の深まりが感じられる。バトルが、夜間人気のない倉庫街というのは一つのポイント。騒ぎは後に放映されるが、限局的な騒ぎに収まった。カブテリモンに進化した対レアモン戦は互角もしくはやや優勢。ピコデビモンの襲撃から光子郎を守った。
●光子郎の母:クレジットには無いが荒木香恵さんが声を。で、泉佳恵という命名が設定されている。家庭的でやさしく愛情深く、感受性が繊細で光子郎の小さな変化に敏感に気付き心を痛める。「でもあの子、気づいてるんじゃないかしら」「ありがとうお母さん、ですって」「私本音を言わせてもらうと光子郎にいい子でいてもらうよりもっと駄々をこねて甘えてもらいたいんです。好き嫌いだってしてほしい。だってそれが子供でしょ、違います?」くう~泣かせます!後でわかる事だが、この感想は育児初心者でなく育児経験のある母親の証言。
●光子郎の父:声は菊池正美さんで、それゆえ泉政美という命名がされている。やさしさからの寛容さ、悪く言えば当たり障りのない優柔不断さ、思春期だからという認識が光子郎の苦悩を深めたと私は思っており、見ていて歯がゆく思う。妻に対しても同様の対応で、妻の繊細な気付きを丸め込むようなことばかり言い悩みを深めさせている。一体光子郎がいくつになったら真実を受け止められると考えていたのか。そんな一大事、何才だとしてもショックに変わりはないのに。
●太一:8人目がもしやヒカリと一度は疑うも、ヒカリがデジヴァイスを持っていないとわかるとあっさり考えを変えてしまう、惜しい、惜しすぎる!どこかホッとしてる風にも見える。早く気づけよと、視聴者はハラハラ。久々の帰還で母と父へハグして泣いた事をコロモンに問われ、恥じ入っている。そこは小5の甘えと自立の微妙なお年頃。ご飯の美味さに感謝しコロモンのために3杯お替り。久しぶりの白米にエビフライ、美味かろう。爆食ぶりに美味しさが伝わってくる。母が太一の体調よりもお小遣い目当てではと勘ぐるやりとりからも、明るくおおらかな普通の母子関係が伺われ、光子郎と対照的。追記、光子郎母の電話の雑談相手として藤田さんが声を当てている。御台場小に通う、わがままで偏食な、弟のいる女児の母。
●ヒカリ:太一より幼いにもかかわらず、光が丘のコロモンの戦闘をハッキリ記憶していた。自身のデジヴァイスの現出に気付いていないのが、8人目探しのネックになっているとも知らず。視聴者としては大変じれったい。
●ミーコ:八神家のマンション・シーリアお台場は現実にはペット不可の物件。ただし「相談によっては可」という情報もあったので、どうなのだろう。光が丘時代から飼っており、少なくとも手放せないほど一家に大事にされていると考えられる。今回は、8番目のデジヴァイスを迷走させた張本人。マンションのベランダから屋外へ、他の猫によってベランダ下から遠くへ、マッハ便に乗ってレインボーブリッジを渡り芝浦の倉庫街へ、マッハ便がレアモンに壊され脱出できたものの野良犬に脅かされ、遂にはデジヴァイスはカラスに持ち去れれ再びお台場へという偶然の重なりは運命のいたずらか。自分の足で遠出したのではないのに、後日だがよく帰宅できたものだ。
●太一の父:声が千葉進歩さんなので、八神進と命名されている。喫煙者かつ、ヒカリがすかさずコップを差し出すからにはビールを常飲、お体大丈夫ですか。太一の給仕も風呂沸かしも妻任せ、リビングでテレビを見て爆笑しているから、家事育児を妻任せの昭和の父親タイプと思われる。熱のある娘を放ってまで実母の入院を見舞いに行ったのはどうかと思うが、入院当初の断片的な情報からそう優先度をつけたのだろう。そういう意味では決断力のある人物。ヒカリも実母もともに大事でなかったのは何より幸いであった。
●ピコデビモン:マンモン・ゲソモンが倒された事で、スカウトしたテイルモンの評価を下げようと笑い物にするが、裏目に出てヴァンデモンに叱責されてしまう辺りはやはり小物。しかし8人目発見のお手柄のチャンスがよりによってこの子悪党に訪れたのは皮肉的。
●ヴァンデモン:アジトの下見も兼ねてかピコデビモンがヴァンデモンとの通信後に第三台場から飛び立っているから、まだ都内某所に潜伏している模様。都内の移動は光を避けられる馬車という大仰さ。
●レアモン:全身の筋肉が腐り落ち悪臭のするアンデッド型の成熟期。体を機械化することで生き長らえようとしたが体が安定せず、身体を構成するデータが崩壊し始めている。しかし機械化ゆえに死ぬ事はなく醜い姿で生き長らえている。知力はなく、本能のままに行動。攻撃力も弱く、他の成熟期の比ではない。必殺技は口から出すヘドロ。単純にデジヴァイスの反応を追うだけで、マッハ便の下を通った遊覧船(船長の声は水谷さん)を転覆させたりクラブ(Club POSEIDON)を破壊する本能的な動き、テントモンと光子郎単体で勝負できる強さという点で今回に適任なデジモンであった。
●ゲンナイ:光子郎のパソコンに、「KANKAN(デジモンのカンカン踊り)」「BALLOON(チューモンが膨らませた風船が破裂)」等(他も気になります、笑)と荒唐無稽で意味不明な機能を複数インストール。さみしくてタイやヒラメのメカを作ったノリでのことだろう。或いは「おぬしもっと気を抜け」という深いメッセージだったりして?肝心の、デジモン出現レーダー「RADER」は有用!芝浦に未確認デジモン上陸を知らせた。電話を掛けるも一同は爆睡中で、おかげで光子郎一人が先に出現を知ることとなり、結果的に単独行動となった。これはウォーゲームの「僕たちいまいちまとまり無いですもんね」の布石となったであろう。
次回予告:8人目はまだ見つからない。東京タワーに現れた、鉄をも溶かす悪のデジモンとのバトルやいかに。
2025.4.20.記