デジモンアドベンチャー第43話感想

デジモンアドベンチャー第43話「危険な遊戯!ピノッキモン」感想
脚本:吉村元希 演出:芝田浩樹 作画監督:信実節子 美術:清水哲弘

メタルシードラモンを倒し、海のエリアは解放された。ホエーモンという悲しい犠牲を払って。

タイトルコールとシルエットはピノッキモン。遊び半分かと思ったら、極めて淡々とした調子。メタルシードラモンに勝利はしたが、その犠牲の大きさに子どもたちの心は揺れて。そして入り込んだ不思議な森は、ピノッキモンの悪質ないたずらに満ちていた。遊び相手に指名されたタケルは、命懸けのゲームを上手く回避し、成長ぶりを見せる。そんな姿に、タケルの保護者を自認していたヤマトは…

暗黒からの解放、勝利の証として、海のエリアは元のデジモンワールドへと戻っていく。それに力づけられ更なる戦いに意欲を見せる太一たち。だが全員がそんな心境では実はなかった。犠牲になったホエーモン、ピッコロモン、チューモン、ウィザーモンの墓を作り弔おうとするミミ。グリーフワーク(遺族にとっての死別後の喪の作業)の真っ最中である。だからこそ敵を倒し敵を討ち平和をもたらすんだと主張する太一。だがミミはなぜ戦うのか、もう嫌と言う。ヤマトもミミのかたを持ち、正論であっても「正しいだけじゃ人の気持ちっていうのは整理がつかないこともあるんだよ!」と反論。前に進むのが正しいとわかっていても立ち止まって考えたい時もある、と。

ミミの心境は、アルフォンス・デーケン氏の残された者が抱く「悲嘆のプロセス」の、第3段階「パニック」(身近な人の死に直面した恐怖から極度のパニックに陥った状態)、第8段階「孤独感と抑うつ」(紛らわしようのない独りぼっちの寂しさがひしひしと見に迫ってくる状態)、第9段階「精神的混乱とアパシー」(空虚さから目標を見失い、どうしていいかわからず、やる気をなくした状態)が混在していると思われる。グリーフワークに取り組む、すなわち犠牲者の死を受け容れ、感情の揺れを認め、乗り越えないと、新しい生活へは進めないものだ。ミミは純真の心の持ち主だからしてこの反応は当然と思われる。そしてヤマトも、大切な母と弟を喪失した体験があるから、ミミに共感したのだろう。ヤマトの熱弁の隣で、太一に賛成の空も苦しい表情をしている。小学生がこのやりとり、いち大人として聞いていて悲しく、切ない。しかも、そんな大事なやりとりさえ、敵の目を気にしながらでないとできないのだから、一同の混迷は必至。流れるのは前回終盤に引き続き「涙の行方」なのが良い。言われて内省する太一、進まざるを得ないのがやり切れないヤマト、兄の言動が引っかかるタケル、一同の心が割れたのを心配する光子郎、休憩が必要と考える丈、皆の疲労を案じる空、皆心は揺れて。そんな折、ヒカリは誰かの声が聞こえる。それは、遊び相手たる一同をワクワクで待つピノッキモンの心から漏れ出た声であったろう。身を隠すために立ち入った森、それは不運にもピノッキモンの支配するエリアであった。

ピノッキモンは一同のいる地面を動かし「僕って親切でしょう」とんでもない勘違い野郎。おもちゃに選んだのはフォーティーフォーマグナムとダムダム弾。実弾で遊ぼうというのだからその神経は無邪気な分だけ残虐。木に登り、動く大地を逃れた一同。でも進むか留まるか、太一とヤマトの議論は平行線。ピノッキモンの次の手段は人形を使った瞬間移動。ヤマトは危機を感じ「タケル、お前だけは絶対に守るから」と言うと、タケルの反応は思うのと違った。皆で協力して戦ってきたのに僕だけ特別扱いしないで、そんなに守ってもらわないといけないお荷物だったのかと真剣に反駁。タケルは彼なりに成長し強くなっていたのだ。二の句が継げないヤマト。

みんな殺しちゃえばいいというピノッキモン、キウイモンに遊び相手がいなくなる、と制止される、おお怖っ。殺す代わりに、人形をいたぶり楽しむ残虐性。いじめやすそうだと目を付けられたのは当のタケルであった。タケルの前に現われ、「戦争ごっこ」を命令。遊びと聞いて乗りかけたタケル、実弾入りの銃にさすがに怒るも、「本当に死んじゃうから面白いんじゃない」「すぐに死んじゃったらつまんないもんね」と、命を遊び道具にするとんでもない発言。ヤマトを人質にして、タケルを遊びに引きずり込む狡猾さ。

ピノッキモンの家にて戦争ごっこ開始。タケルはマッシュモンとブロッサモンに口止めして隠れるが、その配下を嘘をついたという誤解であっさり殺すピッコロモン。ヤバ過ぎる、逼迫した命の危機を感じるタケル。タケルを連れ去られた一行に対するのはキウイモン。親玉の遊びを邪魔させないためだけに戦うが、倒すか居場所を聞き出すかでまた太一とヤマトは平行線。キウイモンは倒され、タケルの居場所を吐かせられなくなった、とヤマトはヒステリー気味;一方、銃にはまともに戦っても勝てないと悟ったタケルは、ピノッキモン相手にひらめきと機転を利かせ一芝居打つ、聞いてて胸がすく思い。そうじゃ、ボロクソ言ったれ!ピノッキモンの性格をよくも把握した芝居、即興なのにすばらしい出来。さすが、将来の文筆家の才能がある。そのすきに逃走に成功して戻ってきた。しかも地図と仕掛けを壊し人形を奪って。ピノッキモンてば、ホントに友だちが一人もいないんだね、友だちとは何なのかを全く分かっていない哀れな子どもデジモン。タケルの自衛と成功ぶりを一同ほめたたえるが、その成長はヤマトの心に暗い影を落とした。

ヤマトはメサイヤコンプレックスではないかと私は思う(自分も当事者である)。親、特に母親に守ってもらいたい、甘えたい。ヤマトは物理的にそれが叶わないので、自身が救済者になりタケルを守り甘えさせることで自らの欲求を代償している、との解釈。またこうも考える。親の離婚という危機で自分が家族にとって必要な存在なのかわからないため、タケルを守るという役割を通じて自身の存在意義を確かにしたい、と。タケルが自立し強くなることは、自身の存在意義がなくなると同じ、と感じてしまう。まさかの客観的な指標でもある友情の紋章は発動しないし、俺なんか居なくてもと意気消沈し無言で姿を消した。悲しいかな、一同タケルに夢中で丈がふと気に留めた以外、誰もそれを追わなかった。ヤマトがかわいそすぎやしないか、と当時者たる私はヤマトに同情する。

「僕と遊ぶのがいやなんだ。そうかよ、わかったよ!」、怒りMAX、恐ろしや。今度はただの遊びじゃ済まないこと確定。

●キウイモン:古代鳥型の成熟期。モチーフは飛べない鳥・キーウィ。鳥型だが羽根が退化し飛べない。植物型の構造を持っており、頭部の葉っぱのようなもので光合成ができる。必殺技は体内に隠れている非常に硬いくちばしのチビキウイモンを発射する「リトルペッカー」。なお、チビキウイモンは攻撃すると爆発する。爆発後は真っ黒こげになってもキウイモンの所へ戻っていくというある意味恐ろしい特性がある。ピノッキモン率いるウィンドガーディアンズに所属。CVは?

●マッシュモン:毒々しいキノコの姿の、菌類なのだが「植物型」の成長期。CVは天神有海さん。

●ブロッサモン:植物型の完全体。CVは荒木香恵さん。

●デラモン:背中に植物を生やした奇妙な鳥型の完全体。ウィンドガーディアン所属だが、わがままなピノッキモンに嫌気がさしている。キャラ語尾が「○○である」。CVは竹内順子さん。

●フローラモン:植物型の成長期。同じくピノッキモンに嫌気がさしている。CVは前田愛さん。

次回予告:タケルは成長したのに自分は、と独りで自問し焦るヤマト。そんな彼にジュレイモンは、ライバルを倒せと説く!ピノッキモンの反撃でなく、こっちのテーマが先か。

2025.5.25. 記

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