「arrive」感想

石田ヤマト×TEEN-AGE WOLVES 「arrive」感想

デジモンアドベンチャー02の25周年を記念して2025年7月30日にリリースされた、石田ヤマト×TEEN-AGE WOLVESの初アルバム(バンド名義でのマキシシングルは既発)。太一は仕方ないとしても02の記念なのに大輔と賢ではなく「02のヤマト」にお鉢が回ったのは意外であった。何か大人の事情があったのかは、私は下世話な人間なので気になる笑。アニメ本編では、京が音楽ソフトで伴奏の打ち込みをしていると明かされているが、このバンドの楽曲を誰が作詞作曲しているかは明かされていない。ヤマト個人でなくバンドと連名の名義で発表しているのには意味があろう。私個人としては、ヤマトが中心となって作詞作曲をし、バンドのメンバーと話し合って詩と曲を調整したうえで編曲を完成させていると推測している。

既存の5曲を新録したのと、新曲5曲というずいぶんと豪勢な内容!!いやもう大満足のヘビロテです!このアルバムへの熱量が抑えきれなくて、ビートブレイクの感想書きより優先して感想を書き上げました。どのデジモンCDでも私は言ってしまうのでありがたみが無いのだが笑、名曲揃い!自分はゴマ丈が一番大好きなんだけど、他のキャラもみな好きで、ヤマトのアルバムというのはそれはそれで良かった。例によって松井伸太郎氏がA&Rプロデューサーを務め、ブックレットの巻末の謝辞は「Very Special Thanks:YAMATO ISHIDA All Fans」となっている。既存曲は新アレンジで総じて音の厚いゴージャスな仕上がりとなった。が、原曲のシンプルさもまた魅力的。聴き比べるのも妙味がある。ジャケはベースを抱えた黒系でまとめたおしゃれな真顔のヤマト。背景はこのアルバムのコンセプトカラー・ブルーグレーを意識しました。(以下一部敬称略)

01.「Walk on the Edge ~石田ヤマトのテーマ~ -New Vocal Arrange Ver.- 
  作詞:山田ひろし 作曲:有澤孝紀 編曲:太田美知彦 (原曲の編曲は有澤孝紀) エレキベース:風間勇刀

原曲は「デジモンアドベンチャー ベストヒットパレード」に収録された曲。風間氏はXにて「この曲はタイトさと跳ね感をベースで乗せたかったのでスラップ奏法を使いました」と述べている。スラップ奏法とは、親指で弦を叩く「サムピング」と、人差し指で弦を引っかけて弾く「プル」を組み合わせたベースの演奏方法。無印・02(と、テイマーズ、フロンティア)の音楽を担当した有沢氏が歌にも楽曲提供した珍しい曲である。原曲はハーモニカで始まるイントロがニクい。新ヴァージョンはヤマトのシャウトは健在、ホーンセクションもギターも層が厚くより華やかに。ベースも存在感ある。「ナイフの上だろうが」、プライドが高く強さもあるヤマトのトンガりっぷりが見もの。

02. 「Peak and Sea Blue」
   作詞・作曲・編曲:玉木千尋

シングルで配信もされている、もしかしてこのアルバムで一番華のある夏の海の明るいゴキゲンなラブソング。「長い黒髪」とあるが、公式カップルの空の髪色は設定上黒でないから、フィクションなラブソングと思われる。決して器用ではないのにモテるこの稀なモテ男をして「かなわないな」と言わしめる、どんなに魅惑的な彼女でしょうか、想像が膨らみます笑。前後の潮騒も印象的。

03. 「黄金色の季節」
   作詞:風間勇刀 作曲・編曲:ARAKI

風間氏が作詞に挑戦した唯一の曲。詩で取り上げられた「黄金色」はヤマトの髪の色であるが、人生の黄金色の季節つまりは青春を歌っているのだろうか。詩の内容は、生きづらさを抱えた不器用なヤマトがそれでも「現実を生きなきゃ」と歌っているヤマトらしい歌。ベースも作詞もイケるなんてすごい、風間氏。

04. 「ひとりぼっちのシーソー -New Vocal Arrange Ver.-」
   作詞:山田ひろし 作曲・編曲:太田美知彦(原曲の編曲も太田美知彦) エレキベース:風間勇刀

02で交際を始めた空に捧げたのであろうか、クールなヤマトが冬の寂しさと温かさを歌ったラブソング。原曲はアコギとピアノとコーラスで素朴なろうそくのような温かさだとしたら、新ヴァージョンは芯まで温まる大きなストーブの温かさ。歌うと身も心もあったまる名曲。原曲の間奏のアコギとピアノのアドリブが素敵。山田氏と太田氏、名コンビでどの曲も大好き。新ヴァージョンの間奏のハーモニカも温かい。

風間氏はXで「太田美知彦さんの作るコード進行の妙と、風間の大好物な12/8拍子に乗せて、冬の季節感やせつなさがボーカルと絡み合うことでより引き出せるようなベースラインを弾いてみました」とポスト。

05. 「僕たちのメロディー -New Vocal Arrange Ver.-」
   作詞:松木悠 作曲:山崎利明(これが本名。現在「山崎燿(よう)」名義で活動中) 編曲:渡部チェル(原曲の編曲は井上日徳)エレキベース :風間勇刀

原曲は「デジモンアドベンチャー02 ベストパートナー② ヤマト&ガブモン」に収録されたデュエット曲。山崎氏から「四半世紀ぶりに新録、収録していただきました!感謝と共に石田ヤマト君(風間勇刀さん)歌手デビュー25周年おめでとうございます」とコメントが寄せられ、風間氏が「四半世紀ぶりに歌ってみて、改めて素敵な曲だなぁと思い切り感情入れて歌わせていただきました!」と返信が。また風間氏は「ベースでも参加。大好きなグリッサンド奏法を多用して想い合う2人の雰囲気を出してみました」とも。グリッサンド奏法は、一音一音の音高を区切ることなく滑らせるように流れるように音高を上下する演奏方法。無印51話のヤマトとガブモンが友情を確かめ合って闇から抜け出たエピソードを、歌うたびに思い出す大好きな曲。二人の深い絆には、原曲も新ヴァージョンもしっとりしたピアノ中心のアレンジが似合う。新ヴァージョンの鐘の音(チューブラーベル?)も深みが増し感動的。ガブモンの山口眞弓さん、このアルバムのためにご足労頂いて、ありがとう。また聴けてよかった。

06. 「YOU 2」
   作詞:渡部紫緒 作曲・編曲:佐藤晃

「不器用な幼さ」という歌詞が一番刺さった。太一と何かと対立し、自分の存在意義がわからず、単独行動に至った無印のヤマトを象徴するようなフレーズで、02ではそれを客観視して作詞に取り入れられるほどヤマトが成長したという感慨がある。昔の自分を振り返ってヤマトは歌詞を書いたのだろう。独りで抱えなくていいよと言ってあげたい。

「なぁ、アイツに伝えてくれないか? 俺を信じて待ってろよ!」これもまた、ヤマトファンの間で語り草となるシャウトであろう!「アイツ」とは恋人ではなく、一番の戦友・太一への呼びかけかと思ったが、続く歌詞が「Dear Friends」と複数形なので、選ばれし子どもたち皆への呼びかけと受け取ったらいいのか。

佐藤氏に対し風間氏は「素晴らしいアレンジと荒ぶるめっちゃカッコいいハーモニカ有難うございました!」と返信を。そう、ヤマトが肌身離さず持っていたハーモニカをアレンジに加えてくれたのはアニメファンとしてうれしい。風間氏が「荒ぶる」というワードをチョイスしたのは、風間氏がメタルシードラモンを演じた無印41話のサブタイトルの「荒ぶる海の王!メタルシードラモン」を想起させる。

07. 「仮想現実のレジスタンス」
   作詞・作曲・編曲:三浦誠司

「レジスタンス」はそもそもは「抵抗」を意味するフランス語。暗闇から光へと「切り裂いて」の連呼が耳に残る。闇は光と表裏一体、だから成長したヤマトはかつてとはまた違う闇に直面するのだろう、幼少期のトラウマゆえに。彼の生きる戦いは続く。

08. 「My chord」
   作詞:川住かつお 作曲・編曲:磯江俊道

マイナーコードでシリアスな歌詞。生きづらさを抱えて、それでも前へ、未来へ走り続けて。歌詞に「溢れた涙」とあるが、音源では「こぼれた涙」と歌っている。風間氏のアドリブか?

ベースを弾いた林無量氏に対し風間氏は「ラインめっちゃ動きながら疾走感溢れる超ゴキゲンなベース、有難うございました!!」と返信を。確かにこの疾走感はとても良い。

09. 「願いかなえるカギ -New Vocal Arrange Ver.-」
   作詞:松木悠 作曲:江川裕史 編曲:渡部チェル(原曲の編曲も渡部チェル) エレキベース:風間勇刀

原曲は「デジモンアドベンチャー02 ベストパートナー②石田ヤマト&ガブモン」に収録されたヤマトのソロ曲。原曲の冒頭のベースとヤマトのカウントダウン「ワン、ツー、スリー、フォアー!!」のはじけっぷりがヤマトの同人の間で語り草となっている。続いて親しみやすいアレンジが。新ヴァージョンの冒頭は軽やかに流れるようなギター。どちらもギターカッコいい。前進することを賑やかに応援してくれる元気の出る曲。「未知へつながるドア♪」のアンサーソングとして大和屋氏は「扉」の作詞をしたのかも。

10. 「扉 DOOR -New Vocal Arrange Ver.-」
   作詞:大和屋暁 作曲・編曲:太田美知彦(原曲も編曲は太田美知彦)

原曲は、ヤマトに特化した大和屋暁氏脚本の異色ドラマCD「手紙」に挿入された曲。TEEN-AGE WOLVESのマキシシングルとして「ひとりぼっちのシーソー」をカップリング曲として発売もされた。「手紙」のジャケがモノトーンなのと対照的に、鮮やかな夕焼けの海を描いたジャケが印象的だった。脚本しか書かれないと思いきや作詞も大和屋氏が担ったというのも珍しい。一点だけツッコむと、「京都にでも」って、鉄道会社のCM(「そうだ、京都、行こう」)の見過ぎでは;ピアノやアコギで静かで淡々とした前半と、開放的で力強いサビが対照的。まさに「扉を開けよう」というコンセプトにぴったりの展開。この力強さに「扉を開いてみよう」という勇気と希望をもらえる稀有な名曲。新ヴァージョンは音が厚くて迫力が増している。自分がカラオケで歌えるとしたら、この曲か「ひとりぼっちのシーソー」を選ぶと思う。太田美知彦氏のメロディーラインは本当に美しくも親しみやすくて大好き!残念ながら忙しくてカラオケはめったに行かないですけど。

2025.11.30. 記

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