デジモンアドベンチャー第51話「地獄の道化師ピエモン」感想
脚本:吉村元希 演出:吉沢孝男 作画監督:伊藤智子 美術:清水哲弘
タイトルコールはピエモン、シルエットの映像は、右手を付き出し飛ぶピエモン。ウルトラマンが元ネタですって。背景は最初の青基調から赤地に、黒という最強のインパクト。レディデビモンを倒しついにピエモンと対決するウォーグレイモン。8人を揃えるため空とタケルは、ヤマトたちを探しに行くが、そこには暗黒の闇が広がっていた。それにとらわれたヤマト、そして空。あまりの強さにウォーグレイモンは苦戦。間に合ってほしい…
●ヤマト:ヤマトは考えを整理したくて、闇の洞窟へ入ってしまう「タケルには俺が必要なんだとか言って、本当は俺がタケルを必要としてたんだ」。ここからのヤマトとガブモンの内面に触れる長い会話を、初めて見た当時私は感動のあまり、何度もビデオを巻き戻して一言一句ももらさずノートにびっしりと書き写している。それほど興奮した。脚本と声優さんの演技に心酔した。当時のあの熱量を私は忘れない。だからあえて全文を引用はしない。無印の中でも五本の指に入る名エピソードと思っている。タイトルはピエモンだが、実質内容はヤマトが主役級。
タケルを必要としていたのは本当は俺だ、自分の居場所を探すため。タケルにはみんながいるし、太一のが兄貴らしい。太一への劣等感、タケルを取られるのではという不安。俺なんかいらない、兄貴面する資格はない。ガブモンが一生懸命語りかける「ヤマトにはヤマトのいいところがたくさんあるのに」。座り込んでうつむいてしまうヤマト。闇にどっぷり漬かってしまう。思わず噛みついてヤマトの目を覚ますガブモン「ヤマトはこの世界でたった一人しかいない」「第一、ヤマトがいなかったら、俺はどうしたらいいの?たったひとりの君と出会うために、ずっとこの世界で待っていたのに!」そうだよね、くぅ~泣ける。ガブモンにとってヤマトはかけがえのないパートナー。本当に一人になりたいなら俺は消えるとまで言う。
「でも本当は、寂しかった。絶対に泣いちゃいけないと思ってた。俺は一人なんだから、一人で何でもできる、立派な人間だって思いたかった。でも、すごく泣きたかった。一人は嫌だよ」兄弟が引き裂かれるという形での離婚のトラウマ。父子家庭で父は仕事中心だったろうから、独り寂しさをこじらせていた。母に愛されていないんじゃないかとの疑念もあったろう。だから、兄弟仲の良かった弟に執着するに至った。父も母も、離婚がどれだけヤマト、そしてタケルを傷つけたか改めて思い知るべき。「俺がヤマトを必要としてるみたいに、ヤマトも俺を必要としてくれよ、そしたらもっと頑張れるから」ガブモンの力強い言葉。「俺は一人なんかじゃない」、ガブモンがいてくれる。タケルも仲間も父さん、母さんもいる。黒い霧は、自らの暗い心が引き寄せたんだ。もう一人じゃない、ガブモンを抱きしめるヤマト。すると、闇が離れていき、洞窟は消えた。
●ガブモン:「もう弱音吐いたりしないからな!」「いいさ、オレだけには弱音吐いてもいいことにするよ」「そうだな、お前だけにはこっそりと弱音吐くことにするよ!」深刻だった会話も、ここまでくるとユーモラスで小気味よい。
●丈:闇のエリアにいながら、ヤマトや空のように闇落ちしなかった。自分の道を、と決意した時からもう迷いを手放したからだろう。よくぞ立派に成長した、あたしゃ感激だよ。素っとん狂な声を上げ、丈先輩登場、笑。破顔一笑「自分の信じる道をひたすら歩いていけば大丈夫だって、自分に言い聞かせて歩いてきたんだ」。ヤマトにブルースハープを返した時のヤマトの柔らかい笑顔「ありがとう」。ハイ、ヤマ丈派として、ごちそうさまですv
●ゴマモン:「丈、ずいぶん男らしくなったね」「何だよ、それじゃ前は男らしくなかったみたいじゃないか」ゴマモンのほっぺをつんつん、笑い合う。このやりとりが超キュートv名コンビ、ゴマ丈の萌えどころ。しかしまあ今のご時世、男らしさ女らしさと言うと性差別に抵触しますかね。性的マイノリティと思われる吉村さんはどんなお気持ちでこのワードを用いたのでしょうか。
●空:闇の支配のせいか、人探しにデジヴァイスは反応しない。ヤマトたちを見つけられるか不安に思うが、タケルには明るくふるまうのが切ない。でも、内心責任感に押しつぶされそうだ。太一の、そして世界の命運を自身が握っているのだと思い詰め、闇の黒い霧に付け込まれてしまう。丈が「君は責任感が強すぎる」って、以前の丈からは考えられないセリフ、お前が言うか。ヤマト「俺たちのやっていることは義務じゃない。したいからやるんだ。やりたくなかったら、やらなくていいさ。でもきっと、俺たちはやりたかったからここまで来たんだ」(選ばれたことへのヤマトなりの解釈、自分が見つけた道)。丈「確かに今僕たちの目の前に待ち構えてるのは、絶望的なことかもしれない、でもそれができる僕たちだからきっとここにいるんだ」(絶望的という自覚があったんだね、しっかり明るくしてたけど)…「できるんだ、そうよね」2人の想いが空に響いた。すると空の心の闇とともに洞窟が消える。
空はストレスにさらされてきた。ヤマトたちが見つからないストレスに加え、それまで太一とヤマトの仲を仲裁したり、パーティーの分裂でずっと無償の愛で太一を支え、年少組を保護してきたのだからその疲れもあったのだろう。その愛情は、報われていいんだ。今話で闇落ちが二人というのはくどいという評もネットで見たが、それがこのエリアでの罠であるし、闇落ちを体験したヤマトだからこそ頼もしくも空を救えたのではと私は思う。そのブログで、友情・誠実・愛情の紋章は、単独でなく他人とのかかわりの中で生きる特質だという指摘はなるほどである。
●タケル:再会してのヤマトとのスキンシップが心温まる。闇から回復したヤマトに会い、ヤマトの変化にすぐ気づいたのはさすが兄弟。
●太一:ピエモンは初戦にて究極体二体を瞬殺した相手。いくらウォーグレイモンが強くなったにせよ、単体での苦戦は明らかなのに、ヤマトの帰還を信じて「意固地」になる太一…それがわずか小5の覚悟なんだから半端なく、肝が据わりすぎて、胸が痛む。リーダーだからって、自分だけが盾になって全て抱え込むなと言いたい。ヤマトへの期待が重すぎる。ウォーグレイモンに加え太一までダメージが及び、エンディングスパイクで2人ともボロボロで倒れてしまう。これでおしまいなのか?!
そこに、ヤマトたちが戻ってキター!「絶対来るって信じてたんだ、お前は、絶対来るって」「ありがとう、信じてくれて。でも、遅くなってごめん。太一、お前は俺の本当の友達だ!俺は、お前の友情を無駄にはしない!」大きな困難を乗り越えて得た友情に、あらためて目覚めたヤマト、2人が友情を確かめ合った時、友情の紋章がウォーグレイモンを復活させ、ガブモンもメタルガルルモンも進化した!この会話の間に攻撃もできたろうに、それは美学が許さなかったのだろう、ピエモン。メタルガルルモンの登場を、ピエモンも待っていた。
●ウォーグレイモン:ドラモンキラーもブレイブトルネードも、ピエモンには効かず(当てても効かないのでなく、当てることができないほどに隙がない)、死闘の果てに。「生き返らせてくれた」と言われているからには、致命傷というわけではなく一度死んだの?!まじ?退化でもデジタマでもなく?もう尺がないからとかいう大人の事情で、なのかしら。
●光子郎:「どうして僕にも戦わせてくれないんだ!」前々回といい、太一のワンマンぶりにはそりゃ敬語も忘れます。
●ピエモン:ウォーグレイモンとメタルガルルモンがそろい、「ようやく手ごたえのあるバトルができる」と余裕だから憎たらしくも恐ろしい。どんだけ強いんですか。
早くミミたちも合流して!
●「勇気を翼にして」:太一とヤマトが光の矢を受けて、アグガブが初めて究極体に進化した時の挿入歌でもある。それがウォーグレ・メタガルのこの回でも使われるのは感慨深い。歌詞の「君」はアグモンを指すと思われるが、本編での使われ方を見ると、ヤマトを指すようにも受け取れる。藤田敏子さんの歌は、声質・声量・キャラ性のどれをとっても圧倒的に豊潤で素晴らしい。菊池正美さんといい水谷優子さんといい、この時代のベテラン声優さんは断トツで歌もお上手。現在、新人声優さんには歌だけでなく容姿・ダンス・楽器演奏まで求められるが、これだけの歌を歌える方はそう多くないと思う。
次回予告:ウォーグレイモンとメタルガルルモンは、ピエモンの奥の手で人形に変えられて。追い詰められたタケルが希望を信じて、エンジェモンがついに完全体へと進化する!ちょい見ただけでも、聖剣士の美しいお姿に期待します。
2025.7.28. 記