デジモンアドベンチャー第53話「最後の暗黒デジモン」感想
脚本:吉村元希 演出:芝田浩樹 作画監督:海老沢幸男 美術:清水哲弘
ダークマスターズ最後の一人ピエモンを倒した子どもたち。だが、ゲンナイから、本当の敵は別にいるとのメールを受ける。戦いは終わりではなかった。
タイトルコールはアポカリモン(CV大塚周夫さん)。シルエットはアポカリモンの下半身、そして赤く目が光る上半身。おぞましさを感じる。
スパイラルマウンテンが崩壊し、子どもたちは暗闇に落ちていく。ある時点で落ちるのが止まり(浮いてる丈先輩のポーズかわいい)、ゲンナイからメールが来る。ゲンナイは、この闇に終わりはないだろう、すべての悪の根源がまだ倒せていないからだ、と。ダイノ古代境の碑文によると
「太古の昔、デジタルワールド(今まで無印では常にデジモンワールドと呼んできたのだが、はて?)のとある場所にあった火の壁の向こうから何かが現れた。それは存在することによって時空をゆがませる生き物で、世界は崩壊の危機に見舞われた。デジモンたちの力ではそれを倒すことができず、現実世界から選ばれし子どもたちを招き、そしてそれは退治された」と。(この時子どもは5人、デジモンはアグモン・パタモン・ピヨモン・テントモン・ガブモンのシルエット)。選ばれし子どもは、以前にもいたのかという驚きと、彼らは勝利したという事実の頼もしさ。予言には、やがてまた火の壁から大きな闇がこの世界に入ってくるだろう、とも。終盤にきてこの展開、いい意味での裏切り。勝利の喜びはかき消されて。ゲンナイさん、具体案も示さずに「心して戦うのじゃ」って、無責任に消えないで~;
●アポカリモン:究極隊で種族は不明、デジモンかどうかさえ謎である。命名は黙示・掲示(アポカリプス)に由来する。その存在自体がデジタルワールドにおける終末を象徴している。正十二面体の上に人間のような上半身が乗り、各面にDNAのようならせん状の職種が付いた五角錐台が配置されている。黒いマント、赤い爪、仮面の下から覗くぎょろりとした黄色い目、何もかもがまがまがしい。この異形はその出自と能力を暗示している。人間の負の感情や、進化の過程で消えたデジモンたちの怨念が集結し生まれた存在で、生きているデジモンや子どもたちを恨み憎んでいる。一人称は「我々」か「私」。今まで倒してきたデジモンの技をすべて使える。必殺技は闇を発生させ全てを無に帰す「ダークネスゾーン」、自身の肉体を崩壊させる大爆発「グランデスビッグバン」。
アポカリモンは、非常に印象的なラスボスだ。ゲーム全般をしない私は、あまたのゲームのラスボスがどんなキャラか知らない。それを前提に言うと、アポカリモンを私は好きだ。世界征服という私利私欲な邪悪な欲求ではなく、脂へ消えていったデジモンの苦しみの代弁者にして、居場所が欲しいと言っている、その人間臭さが好きだ。それが最後の敵というのがなんとも切ない。アポカリモンの言い分は、51話のヤマトとガブモンの会話に次いで好きで、一言一句胸にしみる。偶然か必然か、脚本はどちらも吉村元希さんだ。逆恨みと言われればそうなのだろうが、自分がいろいろとマイノリティな属性だからか、私はアポカリモンの無念を無下にできなくて肩入れしてしまう。説得力を感じ、自責の念さえ抱いてしまう。
「黙れ! 仕方がない? その一言で全てを済ませる気か!
貴様は我々を生き残る資格のない者だと決めつけるのか?そう、我々はデジモンの進化の過程で消えていった種の、その悲しい、恨めしい無念の思いの蓄積だ!
選ばれし子どもたちよ。そしてそのデジモンたちよ。我々はお前たちに出会えるのを楽しみにしていたのだ。
いいか。我々が冷たく悲しく、闇から闇へと葬られていくとき、その片方で、光の中で楽しく笑いながら時を過ごしていくお前たちがいる。なぜだ!!我々が何をしたと言うのだ! なぜお前たちが笑い、我々が泣かなければならないのだ!
我々にだって涙もあれば、感情もあるのに…何の権利があって、我々の命はこの世界から葬りさられていかなければならない!
生きたかった! 生き残って友情を、正義を、愛を語り…この体を世界のために役立てたかったのだ。
我々は、この世界にとって必要がないと言うのか!? 無意味だというのか!
この世界は我々が支配する。我々の場所を確立するのだ…邪魔する者にはすべて消えてもらうフフハハハハハ…光あるところに呪いあれ!」怨念をこじらせて歪んでしまった叫び。
アポカリモンは、自己再生能力があるし、すべてのデジモンの技を使えるようだ。デジモンは触手に捕まれ(デス・エボリューション)成長期に退化させられる。もう一度進化しようとすると、デスクロウで紋章を破壊されてしまう。アポカリモンは、進化できなかった絶望を思い知れという。これじゃ進化して戦えない。まさか勝ち目ない?!そんなのアリ?
「ナーミタデ-ハチターエーマーオ」(お前たちはデータみな)のアポカリモンの呪文で、子どもたちはデータに分解されデータの世界にいってしまう。暗黒と対照的に真っ白で、数字の0と1しかない世界として表現されているのがお見事。姿が分解されても、会話はできているのはちょっと不思議。かつてない体験に不安が募る。希望を失いかけるが、数々の冒険を振り返ると、有意義な経験ばかり。「Butter-Fly~ピアノヴァージョン~」が流れ、ムードがあがる。出会い、仲間の絆、戦いの経験と進化、悲しい犠牲、皆の個性、あきらめない心、知恵と希望…。(ここで丈はいつも通り「デジモンワールド」と言っている。)
ヒカリ「もしも、テイルモンと出会わなかったら」
丈「デジモンワールドに来なかったら」
ミミ「みんなと一緒に、旅をしなかったら」
光子郎「僕たちは、いまの僕たちじゃなかった」
ヤマト「そうだ、いつだってデジモンがいてくれたから」
タケル「仲間がいてくれたから」
空「助け合う大切さを知ったから」
太一「俺たちは、自分らしくいられたんだ!」そうさ、だから負けやしない!
家族や、世界中の人々が子どもたちを見守る。他の夫婦はともかく、奈津子が裕明の手を取り、二人しっかり手をつなぐのが描かれる。これだけ見ても、二人はそもそも好き合っており、離婚の原因は少なくとも浮気ではなく、忙しさによるすれ違いではと推測する。タケルもヤマトも家族一緒を望んでいるのだし、復縁すればいいのにな。
心の中の光を絶やさない!その時、子どもたちの胸に光がともる、紋章とは、彼らの心の特性そのものだったのだ。「一人の紋章はみんなのために、みんなの紋章は一人のために」。胸が熱くなるいいフレーズ。私が誠実なのではなく、みんなの誠実が私の中に集まって輝いたんだ。デジモンたちは進化し、子どもたちはデータの世界から復活しアポカリモンの前に戻ってくる。太一「お前の思い通りにはならないぞ!」。みんな戦いの強い意志をあらわに、ファイティングポーズ(あのミミさえも)!
次回予告:冒険が終わりまもなく訪れる切ない別れ。けれどそれには、最後の敵への勝利あるのみ!
2025.8.3、 記