デジモンアドベンチャー02第23話

第23話「デジヴァイスが闇に染まる時」

脚本:吉村元希 演出:芝田浩樹 作監:信実節子

デジモンカイザーがいなくなり、本来のデジタルワールドで過ごす子供たち。しかし、危機を感じるタケルとヒカリ。その頃賢は・・

TAMACHI.T.M.マンション303号が、賢の自宅だ。賢はいまだ目覚めない。自分の心を見つけるために、賢は眠り続ける。

治兄さんとシャボン玉遊びをした。僕は天才じゃなく、治兄さんは天才だった。近所の人に治をほめられ、母はそれに溺れ、賢の事をついでにほめるだけだった。僕はいなくても同じ、お兄ちゃんがいなければ自分は愛されるんだろうか。お兄ちゃんなんていなくなっちゃえ。

そんな時、デジヴァイスが二人の前に現れた。治兄さん(朴璐美さん)のものに決まってると思ったけど、何も起こらなかった。引き出しからそっと出すと、それは強く光って僕はデジタルワールドへ吸い込まれた。治兄さんは「僕のものに勝手に触るな」と怒った。兄さんは僕が嫌いなんだ、最低の人間だから。僕は悲しい、兄さんは何でも持っていてどうして僕だけんなんにもないんだ。

だけど兄さんは交通事故で死んだ。僕のせいで死んだんだ。お父さんとお母さんを悲しませた。僕はどこへ行けばいいの?どこにいればいいの?

ある日兄さんのパソコンに僕宛てのメールが届いていた。僕のために書かれたメール。

 お兄さんが亡くなったのは、偶然が
生んだ不幸だ。君にとってはさぞかし
心が動揺する出来事だったろう。
でも、安心したまえ・・・
君のお兄さんは死んで楽になれたのだよ。
君はそれを苦にすることはない・・・

よくわからないけど信じようと思った。その方が楽だから。

君のお兄さんは、肉体的死を迎え
て、本当の意味で楽になれたのだ。
永遠の精神の自由を得たのだから。
・・・でも、君はこれからもその
つまらない日常の世界で生き続け
なければならない・・・

つまりそれは、君の自由な精神の
死を意味する。
可哀想な君・・・
私は君に同情する。

引き出される結論としては、
今の世界は君にふさわしくないと
いう事だ。君には、もっとふさわ
しい世界があることを・・・
今、私は君に告げよう・・・・・
君の精神が完全に解き放たれる世
界だよ。
引き出しを開けたまえ。



そのデジヴァイスを使うのだ。

デジヴァイスを手にすると、賢は再びパソコン画面に吸い込まれる。そこは黒い海で、海水にデジヴァイスを浸すと、形が変わった。それが僕だけのデジヴァイス・・・

うなされる賢を見て心配する母。治が亡くなり、賢が治の年頃になって急に賢は頭が良くなった。それを治の再来のように喜んでしまったことを母は反省し、父も賢の良さを認めてあげなかったと悔いる。賢だけでなく、治も天才扱いされて本当に幸せだったのかと今は辛く思う。

シャボン玉の石鹸水を作りストローの先を切ってくれたのは、治兄さんだ。治兄さんは、シャボン玉を膨らますのは賢が一番、優しくそっと息を吹くからね、とほめてくれた。治がシャボン玉を吹くと、玉は割れ治の姿が消えてしまう。

天才が夭折するのは良く知られた歴史的事実で、天才や幼少児は天や神に近い存在ゆえ、天に愛され、何でも敏感に感じ取り、早くに召されるのだ。私は、治は自分が夭折するのを知っていたと思う。だから、はかなく壊れるシャボン玉が好きで、でも吹くのが怖かったんだと思う。それで、デジヴァイスばかりか賢がいずれ両親をひとり占めするゆえに賢に嫉妬し辛く当たったのだ。一方で賢との別れを知っているゆえに、シャボン玉遊びの時賢にひどく優しかったのだと思う。

目を覚ました賢は、両親に「誰?」と問う。記憶を失ったのではない、僕にとってどうい存在かわからないんだ。あなたたちも僕のことわかってない。そして僕は誰?両親は賢に謝罪するが、賢は言葉の意味が分からない。どうして泣くの、悲しいのは僕なのに。なぜか涙が流れる、少なくとも僕とこの人たちは,治兄さんを失った悲しみを共有できるかもしれない・・・。両親わかってないなあ。ちょっと矢継ぎ早にしゃべりすぎだと思う。自分らの謝罪の言葉を聞かせる前に、賢ちゃんのペースをまず尊重してあげてほしいのに。「早く元気になって」なんて急かしてどうするの。

やっと制服を身に着けた賢。だが表情は呆けていて、心が空っぽだ。登校は無理そうだ。治の写真を手に取ると母に「治ちゃんが亡くなって一番悲しかったのは賢ちゃんだったのね」と言われる。

パソコンデスクに座って驚く、デジヴァイスと紋章がある。ワームモンの事を思い出した賢は、デジタルワールドへ向かう。自分の心を探して、デジタルワールドを放浪する賢は、はじまりの街にたどり着く。ここは、死んだデジモン全てがデジタマになって再生するところ。賢はワームモンのデジタマを探すが、どれかわからない。

そこで、赤ちゃんデジモンに「デジモンカイザー、ワームモンのデジタマに何するつもりだ」と攻撃され、自分がカイザーだったことを思い出す。ワームモンを死なせたのにデジタマを見つけてどうしようというんだ。ワームモンを死なせた自分から解放される、ずるい奴だと赤ちゃんデジモンたちの言葉は手厳しい。治兄さんもワームモンも死んだという事実、僕のせいでと自分を責める賢。もし僕が死んだらワームモンは悲しんでくれるだろうに、僕が死なせた・・・「過去をなかったことになんかできない、いいことも悪い事もすべて自分なんだ」。兄さんが死んだことも、カイザーだった事も、ワームモンを死なせたこともすべて。ワームモンがいてくれたという思い出だけで、きっと強くなれる。

なぜ遼たちとの最初の冒険を記憶から消さねばならなかったのか?あの時ワームモンに言われた「優しいだけじゃダメ、もっと強くないと自分の優しさに押しつぶされちゃう」、デジヴァイスは賢ちゃんのものと。何も持っていないと思う方が、兄さんを恨む方が楽だった。「取り返しのつかない全ての事、僕は僕の中に認めて生きていく」、賢はそう決意する。

その時優しさの紋章が輝き、あるデジタマが光った。賢が触れると、デジタマが孵化してワームモンの幼年期・リーフモンが現われる。リーフモンは賢の事を覚えており、2人は再会を喜び合う。「生まれてきてくれてありがとう」。

そして現実世界に戻った賢は、「ママ、僕を生んでくれてありがとう」と伝える。部屋では、リーフモンがそっと賢を見つめている。《治兄さん。今、僕ははじめて言えるよ。全てのことに、ありがとうって》・・・一つの旅の終わり、そして再出発。

参考までに、賢の状況に近いと思われる解離性同一性障害について

原因は、幼少時の心的外傷。解離性障害となる人のほとんどは幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けているとされる。 ストレス要因としては、(1)学校や兄弟間のいじめ、(2)家族や周囲からの児童虐待(心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト)、(3)殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などとされる

*解離性障害:解決困難な葛藤にさらされた場合に、その葛藤にまつわる観念や感情をそれが関与しに精神の部分から切り離し、通常統合されている過去の記憶、同一性と直接的感覚の統制に関する統合が、全面的あるいは部分的に破たんする状態。重要な個人情報、ストレスの強い性質を持つ情報の想起が不可能となる解離性健忘、家庭や職場から突然、予期しない放浪に出る事が特徴である解離性遁走、二つ以上のはっきりと区別できる同一性あるいは人格が存在するのを解離性同一性障害、自分の精神や身体から遊離しているという持続的、反復的な感覚とそれに伴う正常に保持された現実検討を特徴とする離人症性障害、特定不能の解離性障害などに分類される。*(医学大辞典・医学書院より)

賢の場合、まず治と比較されることで両親から精神的虐待(孤独、疎外感、無力感など)を受けたことになる。次に、兄の事故死。両親は悲しむだけで、賢の心のケアをしなかった。デジモンカイザーと一乗寺賢という二つの人格(ワームモンを賢の心の分身とすれば、3つ目の人格だろう)。痛みを与えた治になり切り、他者へ痛みを与える事によって、自分の受けた痛みを自衛したのだろう。カイザーが治の姿なのは、治へのおそれと同時に強い憧れと嫉妬からか。いくつもの人格を持つということは、1人の人格を健全に持てないということ。他者に与えた痛みを認めワームモンが体現した優しさを引き受けることで、3つの人格は統合されたのだろう。

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